「スマイル」
「なっち!起きて!」
あたしは目が覚めた。
ここは・・・楽屋・・・
「さやか・・・」懐かしい声。
「なっち、楽屋の中まで寝坊してどうすんや」
裕ちゃんが笑いながら言う。
「今日はなっちが主役なんだからね。」
福ちゃん!
・・・そうだ!今日はあたしの卒業コンサートだったんだ。
「いよいよだね。」
かおりが寂しげに笑う。
「でも、タンポポ1位になれたじゃない」
「うん。この季節の街中にあたしたちの歌が流れてるのがうれしい。」
「最高のクリスマスだよ。」あやっぺが話に入ってきた。
「さやかも圭ちゃんも、ユニットデビューできたし。」と矢口。
さやか、圭ちゃん、そして新メンの和ちゃんもにっこり微笑んでいる。
もうすっかり『ロックモニ』の顔だ。
もう一人の新メン早紀ちゃんは寂しそうな顔をする。
「大丈夫。あたしのパートナーなんだからさ。」
福ちゃんが駆け寄って元気つけてる。
「しかし、今年もつんくさんに振り回されたな。『二次追加オーディションで2人いれて
今度こそ10人にするんや。』て言って、入れたの糀田早紀ちゃん一人やったし、そしたら、
つんくさん小室さんのところに行って、『最終審査まで残った中富和美、うちに下さい』って
言って、娘。に入れるし。」
あきれた声で裕ちゃんが言う。
「そうだよね。しかも秋になったら、なっちの卒業ソロデビュー大決定だもの。」と福ちゃん。
「でもさ、急遽アルバムからシングルカットした『ふるさと』がヒットしたし。
2曲目のさ『ネヴァフォゲ』、あすかのなっちへの想いが出てるし。」
「やめてよ、矢口。照れるじゃん。」と福ちゃん。
「なっちの写真集は売れてるし、ソロ一発目の『トウモロコシ』も売れ行き
いいからね。前途洋々よ。頑張れ、卒業者1号!」とさやかが言う。
「失礼します。」
ここで楽屋のドアが開いて、みっちゃんと一人の女の子が入ってきた。
あの子、そうだ、妹分オーディションで優勝した子だ。14歳とか言ってたな。
福ちゃんと同じだな。
みっちゃんが言う。、
「この子な、今日はうちらのコンサート見て勉強するって言うんでつれてきたんや。
ほれ、挨拶しいや。」
「あ、石川梨華です。今日は勉強させてもらいます。」ぺこりと頭を下げた。
スタイルいいな。この子もライバルになるのかな。
「じゃあ、そろそろ始まるからね。またね。」2人はそそくさと出て行った。
「あの子も、ライバルだよ。」とかおり。
「たんぽぽも、ロックモニも娘。本体もみんななっちのライバルなんだからね。」
「うちの演歌もね」裕ちゃんも負けずに言う。
すると、あやっぺが、
「内輪だけじゃないよ、今度さあ、フォルダーに後藤真希って子が入ったけど、
その子、すごいらしいんだ。知り合いのスタッフに聞くとみんな『あの子はすごいぞ』
『14歳とは思えない』て話ばかり。娘。本体もうかうかしてられないわよ!」
スタッフから「開演です」の声が聞こえた。
裕ちゃんを中心に円陣を組む。
「よおし、いっちょ気合入れるで。なっちを最高の舞台で送り出すんや。
がんばって、いきまっしょい!」
いきまっしょい・・・・・・・
「安倍さん、安倍さん起きてくださいよ。」
「あ、ヨッスィー」
ここは、楽屋だ。ヨッスィーがいる。
そうか、夢の中で起きちゃったんだ。
「もう起きないと。何で、あたしの得意技取るんだよ。今日はお菓子あげないからね。」
ごっちんが笑いながら言う。
「変な夢だった。」
「またきりんでも見たの?」とかおり。
「違うよ。」
「今日はさ、大事な新メンのお披露目デビューの日なんだからさあ。」
「ごめん、ごめん。」
一体何だったんだろう、あの夢。
あたしはまだ眠気の残る頭でぼんやりと考えた。
新メン達が緊張してるのを見て、矢口が一所懸命笑わせて、リラックスさせている。
辻加護は、圭ちゃんをからかって遊んでいる。ごっちんはヨッスィーからベーグルを
もらって美味しそうに食べている。梨華ちゃんは、何時の間にかメロンの柴ちゃんを
楽屋に呼んで喋ってる。
いつもの変わらない風景。
「これでいいんだね。」
あたしはみんなを見ながらぽつりと言った。
「そうだよ。これでいいんだよ。」
かおりもみんなを見ながら言う。
かおり、まさかあたしが見た夢を知ってるんじゃ?
かおりの顔を見た。しかし、それは交信中の不思議な少女の面影はなく、リーダーとして
みんなを見守ってる横顔だった。
そうだよね、かおり、これからも2人で頑張ろう。
「13人で初めてのライブ、頑張るっしょ。」
「違うよ。」
「え?」
「17人だよ。」
「そうだったよね。」
あたしは笑った。そう、17人。ライブでもいつでも目に見えない4人のメンバーと
一緒に、歌って、踊っているんだ。娘。を辞めた人は一人もいない。
スタッフから「開演です」の声が聞こえた。
かおりを中心にして円陣ができる。
、ごっちんと梨華ちゃんに目が合った。
大切な仲間。大切な17人の仲間。
「今日は、4人の娘。のライブデビューの日です。素敵な思い出を作りましょう。
がんばって、いきまっしょい!」
いきまっしょい!
あたしは最高の笑顔で応えた。
、
END