加速するEVシフトと減速する日本車販売

今日の読売新聞に、「中国の日系車3社不振」という記事が掲載されていました。前から予期していたことが、いよいよ本格化してきたようです。先月5月の中国での新車販売台数が判明したとのことで、前年同月比でトヨタは13.6%減、ホンダは34.7%減、日産は2.8%減となりました。

この記事のすぐ下には、「スズキ タイ工場閉鎖へ」というタイトルの記事もあります。タイ国内で中国メーカーの電気自動車の普及が加速していることなどから、タイの自動車生産工場を来年末までに閉鎖するそうです。なお、スバルは先月、タイの工場を今年末に閉鎖する方針を発表済とのこと。

 

つい先日、日本の自動車メーカーは、昨年度の決算数値を発表したばかりですが、その内容は素晴らしい物でした。史上最高の利益を計上したと大々的に報じられていました。将来、2023年度の決算が日本の自動車メーカーのピークだったと語られる時が来るかもしれません。

 

日本では電気自動車の人気がないせいか、EVシフトの勢いが弱まったとか、ハイブリッドこそ脱炭素の本命である、といった意見を目にしました。確かに、前年度の各社の決算数値を見れば、そのような意見が出るのも頷けます。しかし、世界の動向を見ると、必ずしもそうとは言えないことが分かります。

 

以下は2023年の世界中のEV(BEVおよびPHEV)の販売動向をまとめたサイトです。

 

 

このサイトによると、2022年と2023年を比較すると電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)の合計は35%増加しています。

BEV:7.7(百万台) → 10(百万台)

PHEV : 2.8(百万台) → 4.2(百万台)

EV(BEV+PHEV)  10.5(百万台) → 14.2(百万台)(+35%)

そして、国によっては驚異的な伸び率を示しています。以下はEV(BEV +PHEV)の伸び率

 

トルコ +805%

ブラジル +359%

タイ +328%

マレーシア +886%

オーストラリア +141%

 

タイは昨年、中国からEVの輸入が急増し、その分、日本車の販売が減少したと思われます。

東南アジアは日本車のシェアが極めて高い地域ですが、それが侵食されているのでしょう。

 

このニュースは多くの日本人にとって好ましくない、あるいは気分の悪いニュースだと感じられるかもしれませんが、私の考えは異なります。地球環境問題の観点から見て、望ましい動向だと思っています。電動化の動きが先進国だけでなく、途上国にまで広がっていることを示しており、脱炭素がそれだけ早く進む兆候だと捉えています。

 

車の電動化は、環境問題の観点だけではなく、地政学的な観点からも重要です。途上国(あるいは中進国)が車の電動化を進めるのは、エネルギーの他国依存度を下げるという意図があると考えています。自国内で石油の取れない国は、石油やガソリンを輸入せざるを得ません。自国内で使う動力源を外国に依存するのはできるだけ避けたい、どの国の政府もこのように考えます。しかし、国民に、自動車を使うなとは言えません。そこで電動化が重要になります。電気自動車ならガソリンを使わないので石油の輸入量(=他国の依存度)を減らすことができます。

 

その電気を化石燃料に依存するのなら同じことですが、電気に関しては太陽光や水力、地熱、風力などの手段があります。今後、これらの再生可能エネルギーを増やしていけば、将来はエネルギーの自給自足も可能です。エネルギーを外国に依存している国は数多くあります。それらの国は、地政学的観点から、少しでも輸入を減らしたいと考えているはず。もちろん、経済的なメリットもあります。化石燃料の輸入額を減らすことができれば、貿易収支が改善します。

 

車の電動化は環境問題というより、地政学的な観点や貿易収支に関わる問題なので、「電気自動車は製造の段階でCo2を多く排出し、電気を作るのにもCo2を排出するから環境にやさしいとは言えない」という議論はあまり意味がありません。前述のトルコ、ブラジル、タイ、マレーシアなどは、化石燃料の輸入を減らすことが経済安全保障の観点から重要なことであり、実質的にCo2が減るかどうかは二の次なのです。

 

このような事情をよく理解している中国は、車の電動化に注力し、自国企業の競争力強化を促進してきました。今や、中国の自動車メーカーはEVに関しては世界一の競争力を持っています。さらに、太陽光発電の分野でも中国が世界一です。今後は、車とエネルギーの両分野にて中国が世界中を席巻することでしょう。

 

すなわち、中国の奮闘によって、世界の脱炭素が促進されていくことになります。日本人にとっては複雑な心境かもしれませんが、地球の脱炭素が進むのなら私は歓迎します。