「暫定復活」ジャズ&クラシック・レコメンド -8ページ目

ドナルド・バード/フュエゴ/ブルーノート

 このアルバムは熱い。特にタイトル曲。図太いワトキンスのベースにデューク・ピアソンとレックス・ハンフリーズ(ドラム)が絡まるイントロにバードとジャッキー・マクリーンが重なる。どんどんヒート・アップ。二人が熱いのはどちらともなく先乗りになって行き、テンポアップするところからも分かる。何しろタイトル「フュエゴ」はスペイン語で「炎」だから、熱いのは当然。朗々と歌うバードのソロに押し付けがましくマクリーンが乱入。乱入したかどうかは不明だが、そう聞いたほうがジャズは面白い。不器用だが「おれはこれだけは言いたかったんだ」風のソロを取る。ここまで聴くと、鼻血が出そうなほど血圧が上がるが、そこで涼やかなデューク・ピアソンのソロに救われる。彼のピアノは地獄谷にひっそりと咲くユリのように可憐である。このアルバム、もちろんバードもマクリーンも良いが、その他大勢のファンキー作品と一線を画しているのは、ピアソンの、この可憐なピアノに負うところが大きい。

 全曲バードのオリジナルで彼の作曲のセンスが光る。アルバムの構成も良い。彼はファンキーの代表のように思われているが、実は知性派でインテリだ。後にコロンビア大学から博士号を授与されている。曲の良さはラストのゴスペルナンバー、「エイメン」で光る。「モーニン」のような’コール&レスポンス’スタイルの名曲。ここではダグ・ワトキンスとハンフリーズの掛け合いに注目してもらいたい。ワトキンスは「サキコロ」のベーシストだがここでの名演も忘れてはならない。

 ヴァン・ゲルダーのリマスタリングで、スタジオの奥行きが分かるくらい定位が明確になり、中音の張り出しが俄然良くなった。


個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★


fuego

リヒャルト・シュトラウス/英雄の生涯

 この曲の魅力に気付いたのは2年ほど前のこと。注文していたEMIのダブル・フォルテ・シリーズのマーラー:交響曲第6番(バルビローリ)のカップリングとしてこの曲が収録されていた。(2枚で1000円は安い)。オケはロンドン響。


Rs1


 この曲、否、R・シュトラウスはわたしの「聴かず嫌い」の分野。いつもけちって輸入盤を買っているから、曲の構成などが分からないものもある。R・シュトラウスの場合、これは(少なくともわたしには)致命的で、彼の音楽は難解だと決め付けていた。しかし、このバルビローリ盤は最初の重厚なコントランバス、ゆったりとしテンポ、圧倒的なホルン(8本も使われてる)が相まって、この曲の魅力を垣間見せてくれた。

 そこで遅ればせながら気付いたのは、これは標題音楽だから、ある程度、解説が必要、ということだ。インターネットで調べると、非常に詳しく、分かりやすい解説が見つかる。以前、プリントアウトしたページは残念ながらなくなっているが、下記のページなどを見ながら聴くと、曲が手に取るように分かる。


http://oekfan.web.infoseek.co.jp/note/straussr/ein_heldenleben.htm


 そこで、数枚、他の演奏者のものを購入してみると、さらに凄い演奏があることに気付く。

 さすがオペラ指揮者出身だなと思わせる、カラヤン~ベルリン・フィル、3回目の録音。オーケストラの驚異的な合奏力、強烈なホルン、濃厚な情景描写が聴くものをとりこにする。

Rs2


 カラヤンと対極にあるのがディビット・ジンマン~チューリッヒ・トーンハレ、会心の2001年録音。

 爽やかで、決して重くならない演奏。物足りないと言った意見も聞かれるがこれはこれですがすがしく、何度も繰り返し聴きたくなる。

Rs3


 3枚に共通して言えるのは、並外れたヴァイオリンのコンサート・マスターの出来。ベルリン・フィルのレオン・シュピーラーは、難しいソロを難しいと感じさせない凄さがある。トーンハレのコンマスは適度な甘さと湿り気を含んでいる。

 この曲は曲が進むにつれて退屈になっていくのだが、その点で優れているのはバルビローリだろうか。最終曲「英雄の引退と完成」も埋葬音楽のようにならず、落日の輝きを見ているような魅力がある。

 要するに、3枚とも甲乙付けがたいのである。


ムターのモーツァルト(デビュー盤)

 モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第3番&5番/ムター/カラヤン~ベルリン・フィル


 少し前にいただいたコメントに「モーツァルトは子供には分かりやすくて大人には難しい」というものがあった。このCDを最近幾度となく聴いていて、この例えようもないアンネ・ゾフィー・ムターの美しさ(容姿ではなく音楽)をどのように表現しようかと思っていたが、これで納得。これはムター14歳(78年)のデビュー録音。

14歳という微妙なお年頃がこの奇跡的な名演を生んだのか。

 第3番の1楽章のチャーミングな表現も良いが、お勧めはそれぞれのアダージョ。背伸びして大人びたフレーズを弾くムターは微笑ましくさえある。そして若々しい凛とした演奏。巨匠の大きさに負けていないところに拍手。大胆さと繊細が混在しているところはやはり14歳の天才が成しうる業か。

 美しさの極み。最近流行のピリオド演奏とは対極を成す、モダン演奏の代表的名盤である。

ムター

最近のムター

ムター2

ジュニア・マンス/イエスタディズ/M&I

1.柳よ泣いておくれ
2.イエスタデイズ
3.わが心のジョージア
4.Cジャム・ブルース
5.サマータイム
6.サムシング
7.クライ・ミー・ア・リヴァー
8.ブルー・モンク
9.これからの人生

 エリック・アレキサンダーが1、3、5、7、9に参加。

 この曲目、そしてアレキサンダー参加ということで、企画先行のプロジェクトということは一目で分かる。ビートルズ・ナンバーなどジュニア・マンスは弾いてはならないと個人的に思ったりする。またCジャム・ブルースは8ビートに無理やり編曲され、原曲の良さが殺されている。残念だ。ソウルフルなマンスということで新基軸を打ち出したつもりなのだろうが、これははっきり言って失敗。

 悪口を先に書くと、あとは良いことが残る。アレキサンダーのテナーとマンスの相性がかなり良い。特に、イントロから重くのしかかるマンスにハードボイルドに答えるアレキサンダーは目をつぶって聴いていると、若きデクスター・ゴードンのような豪快さだ。そして絶対お勧めなのがラスト、「これからの人生」。ルグランの曲ということで、バルネ・ウィランなどフレンチ・ジェズマンが名演を残しているが、アレキサンダーも良い。ここでのマンスのソロは彼の浮き沈みのある人生の深みを神妙に語っているようで、聴き応え十分。

 全体として、2曲くらい減らしても良いから、マンス、アレキサンダーのソロスペースをもう少し確保して欲しかったと思うのはわたしだけだろうか。

 個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

 ★★★☆

 2000年録音。

 plus1


カルロス・クライバー/ブラームス:交響曲第2番

 カルロス・クライバー/ブラームス:交響曲第2番(ウィーン・フィル)

触ると火が付いてしまいそうな演奏である。クライバーがウィーン・フィルを自由に操る。ウィーン・フィルも操られることを楽しんでいるような快演である。第一楽章の前奏が終わってから気合い十分でトップスピードで走る。ここにはブラームスのあの音楽室に飾ってある気難しい肖像画のイメージはない。2,3楽章の底なしのロマンティシズム、特にホルンの分厚い音量が一際凄い4楽章。クライバーの踊るように指揮をする姿が目に浮かぶようである。ムジーク・フェラインの聴衆の「ブラヴォー!」の嵐も納得の名演である。

 なお、このCDはブート盤だが、結構量販店の店頭に並んでいる。丹念に探されることをお勧めする。他のブラ2は音質が劣悪なので注意。

 88年ライブ録音。

 モーツァルトの33番&リンツとのカップリング、2枚組。

 レーベル:FIRST CLASSICS

 CD.NO:FC-116-117


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