この本は全部で10章からなるんですが、9章まではスラスラ読めて、10章から急に難しくなります。
でも解説が非常に上手くされているのでわかりやすい。ここで証明の流れを簡単にメモ。
①フェルマーの最終定理(FLT)が成り立たないと仮定すると、フライ曲線が存在する。
②フライ曲線は楕円曲線の1種で、モジュラーではない。
ここまでがアンドリューワイルズによる証明がされる以前に証明済み。
③楕円曲線はモジュラーである。
これが谷山・志村予想と呼ばれるもので未証明のもの。つまりこれが証明できればFLTの証明も完了
します。フライ曲線は半安定な楕円曲線なので、全ての半安定な楕円曲線がモジュラーであることを
証明すれば十分です。次に用語解説。
楕円曲線とは、y^2=x^3+ax^2+bx+c (a,b,c,x,y∈Q) で表され、 x^3+ax^2+bx+c=0
は重解を持たないという条件を満たす曲線のこと。 a,b,c,x,y∈Q より有理数体の世界だけで構築された
ものであることがわかる。
次に有理数体から有限体Fpの世界に移動する。有限体Fpとは加減乗除を mod p で行う体のことで、
Fp={0,1,2,・・・,p-1} である。mod 演算では法と互いに素な整数ならば割り算が可能なので、
Fpは0以外で割り算が可能である(0,1,2,・・・,p-1 は素数 p と互いに素だから)。
ここで楕円曲線の一例 y^2=x^3-x を考えてみる。
このときF2、F3の演算表は、
F2の場合は元の組み合わせが4つであり、このうち方程式を満たすのは
(0,0) 0^2 = 0^3 - 0
(1.0) 0^2 = 1^3 - 1 = 0
の2つのみで、
(0,1) 1^2 ≠ 0^3 - 0
(1.1) 1^2 ≠ 1^3 - 1
は式を満たさない。
さらに x^3-x=x(x+1)(x-1)
となるけど、F2の場合1の逆元は1なので1を加えても引いても同値。よって
=x(x-1)^2 となり重解を持つ。楕円曲線は重解を持ってはいけないので、
y^2=x^3-x は F2上では楕円曲線ではない。
このようにFpに還元していくと、F2以外は楕円曲線になる。
還元とは、Q上の楕円曲線を有限体Fpに移すこと。
このとき、重解を持たないならば良い還元、二重解ならば乗法的還元、三重解ならば加法的還元
と呼ばれる。この例だとF2の場合は乗法的還元、F2以外は良い還元となる。
そして、どの素数で還元しても三重解を持たないならば、それを半安定な楕円曲線という。
こうして還元作業をしていくと、式を満たすx,yの組み合わせの数は
F2 2
F3 3
F5 7
F7 7
F11 11
F13 7
F17 15
F19 19
F23 23
・・・
となる。これをεとする。
次にモジュラーについて。まず、
φ(z) = qΠ(1-q^(4k))^2(1-q^(8k))^2 (ただし q = exp(2πiz))
と定義されるφは保型形式の一種でありモジュラー形式の仲間である関数。
ad-bc=1、c=32N、z=u+vi (v>0、a,b,c,d,N∈Z) という条件で、
φ((az+b)/(cz+d)) = (cz+d)^2φ(z)
が成り立つことがわかっており、これはφを通せば(cz+d)^2という誤差を除けば
(az+b)/(cz+d)とzは同じ形であり、形が保存されている。
(cz+d)^2の指数を重さといい、これは重さ2の保型形式である。
次にφの右辺を展開し、qの指数が1~29までの項の係数を調べていく。計算すると
φ(z) = (q-2q^5-3q^9+6q^13+2q^17-q^25-10q^29+η)Π(1-q^(4k))^2(1-q^(8k))^2
(ただしηはqの指数が30以上の項、Πは8~∞)
これらの指数が素数である項のみ係数を書いていくと
q^2 0
q^3 0
q^5 -2
q^7 0
q^11 0
q^13 6
q^17 2
q^19 0
q^23 0
・・・
となる。コレをδとする。
谷山・志村予想は楕円曲線と保型形式の2つが対応するというものであり、
実際、楕円曲線から生れたεと保型形式から生れたδを順番に足していくと、
足した結果がその素数になるという綺麗な対応をしていることがわかる。
とりあえずここまで。
