
私は村上もとか作品のファンです。六三四の剣、龍、JINなどの大作の他、岳人列伝、メロドラマなど独自の視点から巧みにまとめられた作品群にいつも魅せられています。
この本は、村上先生ご自身の人生を振り返りつつ、これまで創り出してきた作品の背景、作者の意図がはじめて紹介されている、ファンにとっては本当に貴重なお宝本です。ガロ、COMといったマニア誌を読まれていたとのことですが、同時代にそれらの雑誌を読んでいた私も感慨深いものがあります。仮に村上先生がガロやCOMでデビューしていたらその後の漫画家人生は違ったものになっていたかもしれませんね。
先生のような達人になると、構想と方向性、クライマックスシーンなどが固まると、後は自然に物語が進んでいくのですね。カリカリと原稿に絵を描いていくプロセスは作業量は多いですが、映画作りでいえば編集作業といったところで最後の調整作業といったもののようです。先生は頭の中では、次のストーリーを練っていらしたようです。
小説家の文体に読者との相性があるように、漫画家にも絵柄、コマ割りのセンスなどで、読者にとってなぜか好きな雰囲気というものがあるような気がします。
たくさんの登場人物を最後までうまく描ききるのも村上作品の特徴ですが、これができるのは、作者である村上先生の力量と人間性に依存するところが大きいと思います。読者にとっては理屈抜きで好きか嫌いかが大事なんです。結局作品は作者の分泌物なんですよね。例えば私は、手塚先生の作品の場合と同様に理屈抜きで村上先生の作品を面白いと感じてしまうんです。他の漫画家では、ちばてつや先生の作品も同様なものを感じます。
この本が出版された今年の六月時点では、すこし創作を休む充電期間に入られるとのことでしたが、ゆっくり休まれて、これからも素晴らしい作品を発表していただきたいものと期待しています。