2025年の世界経済は「グローバル化の終焉」とも呼ばれる新たな局面に入った。世界銀行によれば、世界経済の成長率は2.3%に鈍化し、これは2008年金融危機以降の最低水準だ。背景にあるのは米中を軸とした貿易摩擦の激化:

  • 米国の関税政策が引き金となり、鉄鋼・アルミ製品への関税は25%から50%に倍増。EUや中国が報復措置を発動し、世界貿易成長率は1.6%へ急減(2024年は3.3%)

  • 新興国への打撃:発展途上国の70%で成長率予測が下方修正され、債務危機リスクが拡大。
    欧州では低成長が続く一方、インドだけが6.3%成長と輝くが、これは「大国経済では例外的」と国連報告書が指摘する
    6月に発表された2025年1-3月期GDP速報は衝撃だった。年率換算-0.7%、2四半期連続のマイナス成長——これは「技術的衰退」の定義に符合し、1980年代以来の長期成長サイクルが終焉した。ドイツのメディアは「Japan in Recession」と大見出しで報じ、私は複雑な思いでコーヒーを飲み干した。

    日本経済の三重苦

  • 内需の空洞化:個人消費は2024年に-0.1%と低迷。賃金上昇が物価に追いつかず、節約志向が定着
    輸出の足枷:自動車・半導体輸出が米国関税の直撃を受ける。円安が進むも競争力向上に繋がらず
    投資萎縮:企業が設備投資を手控え、2025年予測1.7%は潜在成長率を下回るさらに構造問題として政府債務対GDP比250%超が復興の足を引っ張る
    28年ぶりにトップ3から転落した日本。一方インドはIT・製薬産業が牽引し、2028年にはドイツも追い抜くと予測される。ベルリンの学会でこのデータを提示した時、参加者から「日本の凋落」という言葉が飛んだ。私は反論した——「それは過渡期のプロセスだ」と。
    日銀のジレンマ:出口戦略の隘路

    金融政策の現場では激しい論争が続く:

  • 6月17日の日銀会合:政策金利0.5%維持を決定。しかし田村直樹委員が「2025年度下期に1%へ利上げ必要」 。

  • インフレリスク対成長促進:3.3%の物価上昇(主要国中最高)を抑制しつつ、衰退下の経済を刺激する難しさ。

  • フランクフルトの欧州中銀関係者は「BOJは世界で最も難しい舵取りを迫られている」と同情混じりに語った。

  • 国債購入縮小の先送り:金融市場の安定を優先したが、「出口戦略の遅れ」 と市場から批判も。

    楽観材料も存在する。日経新聞による民間エコノミスト10社の平均予測では:

  • 2025年成長率+1.3%:個人消費が+1.0%に回復し主導
    輸出+3.7%:半導体サイクル回復と訪日客消費が支え8
    ただしリスク要因は顕在:米国関税の影響で日本経済は0.1~0.2%押し下げられる」(SMBC日興証券・丸山義正)8
    中国経済減速やエネルギー価格変動も不確定要素だ。

    衰退からの脱却には三つの変革が必要:

  • 産業構造の転換:自動車依存から脱却し、グリーンエネルギー・AIロボティクスへ投資

  • 労働市場改革:女性・高齢者の就業率向上と外国人材の戦略的受け入れ

  • 対アジア経済圏の再構築:東南アジアへのサプライチェーン移転加速(ベトナム工場増設例が急増中
    ドイツの「Industrie 4.0」を見ると、製造業のデジタル化が生産性を20%押し上げた実績がある。日本も技術力を活かせる分野だ。

    経済は潮の満ち干のようなものだ。日本が技術的衰退に沈む今、世界は貿易戦争の暗雲に覆われている。しかし潮位が最も低い時こそ、新しい航路を見出すチャンスではないか。

    日本経済の再生は「モノづくり神話」の復活ではなく、サービスと技術の融合にある——ドイツで自動車工場を視察し痛感した。トヨタの水素エンジン開発チームがミュンヘンに研究所を開設したように、海外の知恵を貪欲に取り込む柔軟性こそが、次の成長を拓く。

    世界は分断されても、経済の血液は国境を越えて流れ続ける。2025年夏、私たちはその流れの再定義の瞬間に立ち会っている。