私が大人になってから、15年ぶりくらいにカリフォルニアを訪れた時、一番最初に驚いたことは、太った人がやたらと多いことだった。

「あれ・・?こんなにも、みんな太ってたっけ???」

街中歩いていても、太った人がものすごく増えている印象があった。

小さい頃に好きだった幼馴染の女の子に再会したとき、丸々と太った姿を見て、かなりのショックを受けたものである。昔はあんなに可愛かったのに・・・。

でも彼らはみんな明るく陽気だ。

アメリカでは親密でもない相手に「あら、あなた最近太ったんじゃない?」ということは、「あら、あなたの髪って、もしかして、それ・・・ヅラ?」というぐらい、失礼なことで、絶対言ってはいけないタブーだったりするので、どんなに太っててもみんな平然と町を歩く。


ある日、私が現地のスーパーに買い物に行った時である。

仲の良さそうな、かなり太った白人の老夫婦が買い物カートいっぱいに、1週間分の食料品を乗せレジに並んでいた。彼らが何を買い物したのだろうと、中身を見ていたのだが、カートの中に入っていたのは、ポップコーンや、ペプシコーラ、トルティーヤのスナック菓子、朝食用のシリアルや、3キロくらいありそうな牛肉の塊、マカロニ&チーズ、冷凍ピザや、箱買いしたチョコレートバーなどだった。

他の老人客のカートも何人か見たが、大小の差はあれ、似たような品目が並ぶ。

無論、家族のために買っているのではない。彼らが食べるために買っているのである。

確かに野菜や果物なども買っていたりするのだが、私のその時抱いた感想は、子供が好きそうな食べ物ばかりだなぁ、というものだった。

アメリカ人の多くは、大人になっても、老人になっても、子供の時に好きだった食べ物を食べ続ける。おじいさん、おばあさんになっても、ピザを食べ、コーラを飲み、ハンバーガーを食べ、クラムチャウダーをすすり、ソーダを飲み、チョコレートを頬張り、スパゲッティを食べ、チキンを貪り、シリアルを食べ、マッシュポテトを食べ、タコスを食べる。

日本人のように、大人になってから、煮魚定食を食べるようになったり、大根おろしが好きになったり、奈良漬が好きになったり、納豆を食べるようになったり、ひじきの煮物を食べたり、お袋の味が恋しくなったりすることが無い。

なぜなら、アメリカ人にとって、お袋の味がもう既に、ピザやサンドイッチや、ハンバーガーだったりするからである。ファストフードやデリバリーなどの外食も非常に多い。アメリカ人にとっては、大人が食べる物も子供が食べる物も同じであり、子供が好きそうな高カロリーの食事、その一種類しかないのではないかとすら思えてしまう。

なので、急に大人になってから、日本食を食べるようにしましょうとか、果物を多く摂りましょうとか、野菜中心の食事をしましょうと言っても、これはかなりキツイ。

小さい頃食べた味というのがどうしても忘れられない。いくらお茶を飲むようになったとしても、小さい頃から水代わりに飲んでたコーラが飲みたくなるし、たまにはハンバーガーやフライドチキンも食べたくなる。

決してアメリカ人が、怠惰だったり、根性が無かったり、お子ちゃまだったりするのではなく、小さい頃の食習慣、親の食習慣や周りの環境が、大人になってからの低カロリーな食生活の変更を非常に難しくしているのではないだろうかと、私はそう思うのである。

日本人も今はいいけれども、昔ながらの日本食を食べる伝統を守り続けなければ、アメリカ人の悩みをいつしか共有することになるかもしれない。


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