投げられた試練、受け続け36歳役員に 成島由美さん(株式会社ベネッセコーポレーション プ... | プライバシーマークだけじゃない個人情報保護、年間3万円からの個人情報保護マーク

プライバシーマークだけじゃない個人情報保護、年間3万円からの個人情報保護マーク

個人情報保護団体JAPHIC(ジャフィック)のパートナ企業の代表が、個人情報漏えい事故や事件、個人情報の保護について記載していきます。

JAPHICは、個人情報保護法に基づき中小企業やPマークの取りにくい職種に対しても門戸を開く、個人情報保護団体です。

 今、日本の子どもたちをとりまく環境は大きく変化し、諸外国と比べ学力低下しているとの指摘もあり、改めて教育の重要性が叫ばれている。教育事業のリーダーカンパニー、ベネッセコーポレーションも、大きな危機にさらされてきた。それらを数々のユニークな戦略で脱し、わずか36歳で執行役員に就いた成島由美さん。新人時代から、生意気と言われるくらいに上だけを向いて突っ走ってきた成島さんが、執行役員になって見えてきた仕事の目標とは……。(聞き手:「J-Win」ライター小林亮子)

 ──エントランスで子供たちの姿を見ました。御社らしい風景ですね? 

 教材作成の事前チェックのために集まってくれた子どもたちだと思います。実際に商品にする前、校正紙の段階で、子どもたちに問題を解いてもらい、どこで鉛筆が止まるかを編集者がチェックするんです。子どもに理解できなかったところについては、こちらの問題の示し方などが適切かを再検討し、修正を加え、色校正紙の段階でもう一度子どもたちに解いてもらいます。修正後はスラスラと解けたりするのです。弊社の商品は書店で販売していないので、ともすると、顧客とのつながりが見えなくなってしまいますので、このように「顧客を見ながら作る」ことをとても大切にしています。

 私自身、入社後に配属された中学生向け通信教材「進研ゼミ」の編集部で、子どもたちと接するうちに、少しずつ仕事が好きになっていきました。メインの教材である「チャレンジ」には中学生全体で約80万人、1学年でも約25万人の読者がいて、毎月手元に届くのを待ってくれている。最初は、ファッション誌のような華やかな仕事への憧れがありましたが、これほどの部数の月刊誌はほぼありませんでしたから、「『チャレンジ』も、いいな」と思うようになったのです。

 ──「顧客、子供たちと接すること」は、執行役員に就任された今も大切にされていますか? 

 もちろんです。今日も雨の中、事業部員が東京・神奈川の小学校校門前に立って新1年生を応援する活動をしています。4月入学予定のお子さんと親御さんたちが新入学検診で集まる日なので、「進研ゼミは私たちが作っています。新1年生を応援するので、ぜひどうぞ」と、案内書を手渡すのです。私も、この後に向かいます。小学生事業部全員の活動ですが、全社員のイベントにするべきだと、社長に提案したのです。

 イベントには、子どもたちやお母様たちに直接会うという以外に、社員全員に危機意識を持ってもらうという意味もあります。実は、今年から我々の事業環境がまったく変わってしまうのです。通信教育教材は、新1年生の契約数によってその先の利益が決まってくるのですが、今年の新1年生以降の子供については、市役所で住民台帳を写すことができないので、ダイレクトメールが送れなくなるのです。現在、1年生の営業部員は、20人ほどいるのですが、20人だけではもはや戦えないと思っています。社員全体でこの緊張感を共有しなくてはなりません。この寒い中に立ち続けたら、きっと何かもっといい作戦を考えることになると思います。

 ──これまでもユニークな戦略を実践されてきたそうですね。中学生事業の責任者となり、落ち込んでいた業績をV字回復に導かれたとか。

 中学生向け事業部の本部長になった時は、「合格させて、中学生を泣かせよう」というコンセプトを打ち出し、事業部員全員を高校の合格発表に行かせました。

 会場では、合格した子どもやお母さんが「進研ゼミ、やっていました。ありがとうございます」と声をかけてくれるので、一緒に写真を撮ったり、どの教材がよかったかをインタビューしたりして、ダイレクトメールに載せるのですが、成果はこれだけではありません。うれし泣きをしている子どもや胴上げを見て、社員もわんわんもらい泣きをします。そして会社に戻ると、憑き物が落ちたような顔をして仕事をするんです。東京都立高校の合格発表日に全社員参加の朝礼が組まれたことがあり、その時は怒りがこみあげ、「参加しなくていい。責任は私がとる」と言いました。自分たちの仕事がどこにつながっているかを忘れると、社員の顔はドヨンとしてきます。そうならないように刺激を与えるのが、リーダーの役目だと思っています。

 それから、2000年くらいに個人情報保護の機運が高まって、それまで最も強力な集客ツールだったダイレクトメールが使えなくなってきた時に、学生服メーカーと共同で販売促進活動をしました。「新入生のリストを持っているのは誰か? 」と考えて、新入生が必ず顧客となる学生服メーカーだと気付いたんです。話をもちかけたらうまく行き、V字回復にもつながりました。今も部下には「小学生が来る場所を考えて、そこをジャックしろ」と言っています。





 ──36歳で執行役員、異例のスピード出世です。

 脈絡がなくハチャメチャに見えるようなこともやってきましたが、幸い、一緒に仕事をしていた部下たちはおもしろがって支えてくれ、だから結果が出たと思います。すごく働かされたのに、いまだに「あの時は楽しかった」とか「仕事観を変えてもらった」と言ってくれて、その喜びは大きいですね。

 外にあるものと結びつけたり、過去から脱却して新しいことを加えたりする発想は営業時代に学びました。営業は、「大きな部長になりたいなら、営業を経験しろ」と上司に説得されて異動しました。

 新人の頃に中学生向け事業部の部長に、「どうやったらその席に座れるんですか」と、聞いたことがあります。すると、「お前は本気で帝王学を学ぶ気はあるか」と言われ、飲みに行っては禅問答のようなことを繰り返していました。「上り詰めるにしても、あんまり時間がかかったら飽きてしまう」と怖いもの知らずに言ったことがあるのですが、その部長は10年以内に、部長の席に座らせてくれました。生意気でしたが、期待をかけて配属してもらってきたと思います。最初の編集部での担当は英語教材だったのですが、英語は他の教科に比べて教科書のバリエーションが多く、その分教材の充実が求められるので、スタッフ数も格段に多い。ゼネラリストとしての資質が必要になる部署でした。その後も、高校教材で編集長になったと思ったら営業に異動させられたり、営業で一人勝ちをして楽しくなった途端に業績がとことん落ち込んだ事業部の責任者を任されたり。試練を与えられるたび、「何メートルの崖から突き落とすと、私か死ぬか試しているんでしょう」なんて、文句を言いにも行きましたが、今は、自分が見込む人材を見つけだして育てることの大切さを教えてもらったと思っています。だから自分も、同じことをやっていこうと。

 ただし、女性も「自分はもっと高みを目指したい」と思うなら、見いだされるのを待っていてはダメです。メッセージの球を投げ続けなくてはいけません。そして、上司が球を投げてくれたら、逃げずに受け止める勇気を持ってほしいですね。

 ──これまでのキャリアで、女性だから突き当たる“壁”のようなものはありましたか? 

 意識したことはありませんでした。ベネッセの女性エグゼクティブは男性的だし、逆にそのクラスまで出世する男性陣は、こういう女性の多い会社では力を引き出すうまさがないといけないからでしょう、女性的なんです。トータルで見ると、部長以上は中性的です。

 ──ご出産をされていますが、その時も”壁“は感じませんでしたか? 

 あまり感じませんでした。ちょうど先ほどお話ししたV字回復が見えてきた時期で、それまでずっとバタバタしていて、ホッとした瞬間に妊娠! という感じでした。33歳で、結婚5年目でしたが、いつ授かってもいいと思っていました。部長クラスの産休はベネッセでも前例がなかったので、最初はどうなるのかなと思いましたが、上司が「とにかく体を大事にして、無事に戻ってきてくれ」と言ってくれたので、出産予定日の2ヵ月後、事業計画や組織編成をする1~2月に復帰することを目標にしました。夫もベネッセで当時編集長をしていたのですが、私と入れ替わりで年度末まで育休をとることを決めました。編集長職を替わってくれる副編集長には焼肉券を贈ったり(笑)、夫の復帰後は、親や妹も巻き込んで、育児のためのインフラを整えました。

 ベネッセは女性の多い会社で、年間約100人が産休や育休をとって復帰しています。そのための制度は手厚く、自社内に保育所もあります。教育産業ですから、母親としての経験は仕事に活かせるという考え方が男性にも浸透しています。でも、そこに甘えて享受するだけというのは認めない、という姿勢を貫いています。育児環境をあらかじめ準備できる能力がない人には、管理職をまかせません。子供を持たない同僚に「私はいつもフォローさせられてばかりだ」というモヤモヤした気持ちを持たせないためにも、職場のメンバーをフォローしたり、されたりしたことを見える化し、評価制度に取り入れています。

 ──教育産業に携わる人として、あるいは母として、今後の日本の教育について考えをお聞かせください。

 これからは、グローバル競争の時代で、子どもたちには、語学力が必要だし、きちんと自分の考えを表現したり、答えのないものに挑戦したりする意気込みが必要になると思います。今までの日本のスタンダードにはなかった、こうしたニーズに答えるべく、世界中の教育関係の有識者やシステムを集め始めています。一方で、日本の入試制度そのものが大きく変わらない限り、やはり入試をのり越えていくための教育を、私たちは一番に考えなくてはなりません。親も子供もそこにプライオリティーを置いているのですから。ここにどのような折り合いをつけていくのか、方法論を構築していくのか、社内で積極的に議論しています。

 執行役員になる前は、目の前のニーズに合わせて数字をとることが重要だと思っていました。けれども執行役員になり株主総会に出席するようになって、株主から「日本の教育のインフラになっている会社として、学校がやる通りのことだけでいいんですか」という質問を投げかけられた時、「ここまで自分たちは期待されている」「私たちが背負っている責任は、決して一時的な業績ではない」と身が引き締まる思いでした。20年後の日本を支える子供たちに対して、ベネッセがどのような教育を提供していくのか、ぜひ見ていていただきたいと思います。

 (企画・取材協力:NPO法人「J-Win」エグゼクティブウーマン・ネットワーク)

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