市場環境の分析で「Economical (経済上の)& Competitive(競争的な)」と言われる分野は、一般企業の場合だと、商品やサービスを売る市場の経済状態、及び競合他社などのことを指す。つまり、好景気であるとか、不景気であるとか、同じ商品を扱っているライバル会社について、或いはその会社の商品を分析することである。例えば、日本は不景気であっても、中国は好景気だという分析結果であれば、「今後は中国で売り上げを伸ばすように商品を企画しよう」といったように、今後の方針を決める情報になりえる。

ボランティア活動は非営利だからこのような分析は関係ないと思われるかもしれないが、ここをきっちり把握できているかどうかで活動の成否が決まるとも言える。実際JHKも、今思えばこの分析があったらからこそ今の団体構造ができ、ここまで団体が成長したのではないかと思われる。

震災直後の日曜日にJHKは義援金集めの活動を始めることにした。実際にはその夜、Facebookで同志を募り、翌朝メンバーは100人を超えていた。そして月曜日に活動のサポートを得るために関係各所に電話をしていて気づいたのは『同じ事をしようとしている人が他にもたくさんいて、それぞれがグループを立ち上げようとしている』と言うことである。つまりJHKの周りはライバルだらけだったということである。

変な話、「日本の為に何かしたい」と思う人が多ければ多いほど、ライバルは増え、下手をするとボランティアの競争になりかねない。なぜなら同じ市場で同じ事をする場合、お客さんはどれかを選ばざるを得ないからだ。分かりやすく数年前のスマトラ地震を例に取ってみよう。あの時に募金した人はどの位いらっしゃるだろうか?そしてその方は何度も募金されただろうか?こう言われると「募金したのは一部の人で、それも一度きり」というのは想像に難くない。

つまりオランダで本当に義援金をたくさん集めたければ、ボランティア同士で競っている場合ではない、ということだった。ではどうしたか?

答えは簡単である。ライバルを味方にしてしまえばいい話である。『義援金集めるという同じ目的の為に、お互い協力しあいましょう』と、JHKは独自の企画以外に同趣旨の別グループのサポートができるようなグループ構造をとることにした。これがアンブレラ・オーガニゼーション(雨傘型団体?)の始まりである。
マーケティングとは、顧客の潜在ニーズを探し出し、それに見合う商品やサービスを提供し、いかの顧客を満足させるかというプロセスのことである。すなわち企画、開発、市場調査、価格設定、宣伝、ブランディング、流通など様々な活動は全てマーケティングと言える。

巷のマーケティング専門書を開けば、4P、7P、4C、5Sなど理論がわんさか並べてあり、その一つ一つをみていくときりがない。ぶっちゃけボランティアのチャリティーでそこまでやっている暇はない。ただボランティアを成功させたければ、少なくとも自分の団体がどういう環境化にあり、何をするべきなのか大まかなことは把握しておくべきだろう。

JHKの場合、ターゲティングのところで述べたように顧客は「一般オランダ人」、そして商品やサービスに当たるものは「イベント」や「コンサート」だった。では市場の環境はどうだったのか?

3月11日以降、オランダでも毎日のようにニュースで地震や津波の映像が流れていた。つまり、義援金集めの為の宣伝広告は自分達でやらなくとも、新聞、ラジオ、テレビで扱ってくれていたことになる。要はニュースの延長線上で自分達の活動をすればいいだけの話である。

しかしオランダにとって日本での出来事は所詮遠い外国での話。ニュースバリューがあるのは始めだけだ。実際、3月11日以降の世界のニュースはリビアからビン・ラーデン、そしてアイスランドの噴火へ移行していて、日本の震災は現在ほとんど扱われなくなっている。原発問題がかろうじてニュースに登場するが、最近は震災の「し」の字も聞かない。

ただこのことは初めから予想できていた。結局オランダ人にとっては日本の災害なんて他人事に違いない訳だから。悲しいかな、それが現実なのである。だからこそ、義援金集めは最初が勝負だった。皆が忘れないうちに、生々しい映像の記憶が残っているうちに「家を流された人のために」、「親をなくした子供達のために」と活動して行く必要があった。

これがいわゆる「Sociocultural(社会文化的な)」市場環境にあたる部分である。次回は「Economic(経済上の)&Competitive(競争的な)」市場環境についてみていく。
ターゲティングとはマーケティング用語で、企業が商品を市場に出すときにどんな顧客層をターゲット(標的)にするかをあらかじめ決めることである。これはどんな商品でも、顧客全員のニーズを満たすことが不可能だから、ターゲットにする顧客層を初めから絞ってしまうということである。分かりやすい例を出すなら、携帯電話のiPhoneなどは若い世代をターゲットにしていて、お年寄りではない。

などと書くと、ボランティア活動となんの関係があるのか?と思われるかもしれないが、実はターゲティングも重要な項目である。

例えばJHKの場合、ミッション・ステートメントが「オランダで出来る限りの義援金を集める」で、この場合のターゲットは「募金してくれる一般のオランダ人」だった。ここで間違ってはいけないのが「オランダ在住の日本人はターゲットではない」のである。なぜか?

オランダに住む日本人はほぼ間違いなく今回の震災に心を痛めていて、こちらからアプローチしなくとも募金するからである。しかも、自分で募金する以上に何かしたいと思っている人たちばかりで、どちらかというとターゲットではなく、ボランティア活動の協力者なのである。実際にボランティア団体としてアプローチしなくてはいけなかったのは、「ニュースで日本のことは見たけど、まだ何も行動を起こしていないオランダ人」だったのだ。

この一般オランダ人に『いかにたくさん日本の為にお金を出してもらうか?』これこそが、JHKのマーケティング戦略だったと言っても過言ではない。

このように活動の焦点を絞り込んで行くことが、ボランティア活動の成功への早道とも言える。