フツーの人は来ないでほしい。

一般人は困るのよ。

ブスは一番だめ。

標準的なのは退屈だから、ブッ飛んだ人に来てもらって

楽しく一緒に、思う存分踊りたい。

ボクの人間のおかあさんは、こんなこと言っているから、

来るのはイマイチ変な人ばかり。


「奇人・変人・天才・芸術家・変態・美形歓迎の踊りのお稽古場」


まともな人は、こんな看板を見ると、びびってしまうの。

しかし、これに該当する人は、小躍りする、

ワオ、これこそ、自分が長年捜していたお稽古場だ。


まず、レオタード軍団だ。

平均年齢35歳の男性たち。

会社経営者や、医師、不動産、兜町の株屋もいる。

最初の一回目は、これらの男たちは、黒、丸首、長袖のレオタードと、

黒タイツで登場した。

ところが、回を重ねるごとに、ブルー、オレンジ、イエロー、レッド、ピンク、グリーン、そして、新体操の試合用だか、エアロビ選手権の衣裳だかの、

派手な柄やデザインの入った大胆なものになっていく。

もちろん、タイツは、黒、白からピンク、そして、最終的にはベージュや網タイツへとエスカレートしていく。

自分がレオタードを着た姿に見とれてしまって、踊りの振付なんかぜんぜん覚えられないサラリーマンもいる。

もっこりを強調させて、パツパツのハイレッグのレオタードに身を包んでいる人もいるけれど、あんまりハイレッグにすると、アンダーパンティが見えてしまうから、猫のボクも気になるけれど、言葉が通じないから注意のしようもない。

お稽古の時には、メイクしなくてもいいのよというボクのおかあさんの言うことも聞かず、ファンデーションなんか塗って、口紅つけてるおじさんもいる。

メイクなんか、お稽古したら汗で飛んでしまうのに。

むろんイヤリングも忘れない。


中でもひときわ目立つのは、「寿子」だ。

胴体の3サイズが同じこの中年は、みんなに自分のことを寿子と呼ばせる。

お稽古に来る時には、すでにメイクをした姿でハイヤーから降りて、運転手に大きな鞄を持たせている。

その荷物の中に、バレエの衣裳が入っている。

そのサイズだから、お誂えなのだけれど、バスト95、ウエスト95、ヒップ95でよく白鳥の湖のチュチュなんか作ってくれると思う。

ピンク・タイツに27センチのピンクのバレエ・シューズ。

頭には大分うしろに上がってきた貴重な髪に白鳥の羽根をピンでとめている。

そんなことするから、余計に禿げるのよと忠告してあげたいけれど、誰が猫の言うことなんか聞くものか。

寿子はレッスンの前日までに、レッスン内容を台本に書いて、ボクのおかあさんにFAXで送ってくる。

こんな受講者は他にいない。

通常は、ボクのおかあさんの言ったとおりのお稽古をする。

回りなさい、跳びなさい、足を上げなさいなど、動きのすべてを指示するのは教師だ。

ところが寿子だけは、自分がやりたいお稽古の内容の台本を送って来て、しかも、その台本が回を追うごとに詳細になってくる。

おかあさんは、こういう生徒からは、他の生徒の3倍の金額を徴収する。