目が覚めると朝日が昇っていた。白み始めた空が今日の日を告げる。
郵便受けを覗くと手紙が一つ、入っていた。封を切ると中から見慣れた筆跡が現れた。あの時書いていた物の様である。
其処には、良い縁談を有り難う、と言う事とお前も早く結婚するんだぞ、と言った事、そして何やらこれ迄の詫びの言葉が綴ってあった。
最後の頁をめくると、お前の事は決して忘れない、今迄有り難う、と何やら別れの言葉が綴られていた。
紙面が滲んだ。
思い返せば私は、一言も長崎に感謝の言葉を述べられなかった。
紙面が、滲んだ。
鮮やかな大漁旗があがる頃、私は掛け軸の絵を描いた。
漸く完成した時妻は、絵の中の男性は一人で良いのではないか、と率直な意見を述べた。私は苦笑し、私もそう思う、と伝えた。妻は怪訝そうな顔をし調理場へと向かって行った。
私がこの掛け軸を『雪女』と題したことを伝えたならば、妻は又怪訝そうな顔をするのだろうか。そう思いながら茶を啜った。