*ニコラ君の新学期  ークロテールの引っ越しー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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クロテールの引っ越し

 クロテールがすごく喜んでる。何故って、引っ越しをすることになって、今日の午後は登校しないで済むよう親に届出書を書いてもらったからなんだ。

 「家(うち)の親はボクの手伝いが必要なのさ」ってクロテールは言った。「すごいアパルトマンに越すんだぜ、今住んでるところからそう遠くないんだ。一番ステキなアパルトマンが手に入るのさ。」

 「笑わせるなよ。」ってジョフロワが言った。

 「おまえこそ笑わせるな!」ってクロテールが怒鳴った。「三部屋もあって、おまけに… 当ててみろよ。リビングがあるんだぜ!おまえんちにリビングなんかあるか?」

 「リビングなんか沢山あるさ、なにしろ戸建てだからな!」ってジョフロワが怒鳴った。「だからおまえんちのリビングなんてお笑い種(ぐさ)さ!」

 そう言ってジョフロワが笑うと、クロテールはジョフロワを見つめて自分の頭の横に指を一本捻じ込むふりをしたんだ。でも、二人は殴り合うわけにはいかなかった。だってブイヨンがすぐ近くにいたからね。(ブイヨンていうのは、ボクらの生徒監督のことだよ。)

 「もしよければ」ってウードが言った。「今日の午後、学校が引けたらみんなで引っ越しの手伝いにいくぜ。」

 するとクロテールは、そいつはステキだ、引っ越しの手伝いに人手があれば家の親も大喜びだって言った。それでみんなでクロテールの家に行くことに決めたんだけど、ジョフロワは別だった。奴はみすぼらしいリビング付きのアパルトマンに引っ越すバカの所に行って手伝いなんかするもんかって言ったんだ。それからブイヨンが休み時間終了の鐘を鳴らしに行ったんで、二人にはチョッピリ殴り合いをする時間があったのさ。家に帰ってお昼を食べている間に、クロテールのご両親がクラスのみんなに引っ越しの手伝いに来てほしいと思ってるってママに伝えると、ママはビックリした。

 「変な話ね」ってママは言った。「でも、まあ、家から遠くはないし、ニコラの気晴らしにもなるし…でも服を汚しちゃダメよ、それに帰りが遅くなり過ぎないようにね。」

 

 学校が終わると、ウード、リュフュ、ジョアシャン、メクサンそれにボクはクロテールの家まで駆けて行った。アルセストは来られなかったんだけど、おやつを食べに家に帰らなきゃならないことを思い出したからなのさ。

 クロテールの家の前には、引っ越し用の大型トラックが一台、それにクロテールのお母さんがいた。お母さんはボクらの姿に気付かなかった。何故って、そのときすごい太っちょの二人の引越し屋さんと話している最中で、引越し屋さんの方はソファーをトラックに積み込んでるところだったんだ。

 「慎重にね」ってお母さんは言ってた。「このソファーは弱いのよ。右足が少しグラグラするの。」

 「ご心配なく、奥さん」って引越し屋さんは言ってた。「慣れてますから。」

 階段の所でボクらは待たなきゃならなかった。別の引越し屋さんたちが、開き戸のついた大きなタンスを下ろしているところだったんだ。

 「どいとくれ、坊やたち!」って引越し屋さんの一人がボクらに言った。

 クロテールのアパルトマンに着くと、ドアが開いていて、荷造り用の箱やら、藁やら、家具やらがそこら中にあって、中はしっちゃかめっちゃかだった。クロテールのお父さんは、上着は脱いでいて、引越し屋さんたちと話していた。引越し屋さんたちはサイドボードの周りに縄をかけていたんだけど、お父さんにも「ご心配なく、私どもは慣れてますんで」って言ってた。

 「扉があるからね、開いちまうんだよ。」ってお父さんは言っていた。

 それから、クロテールがやって来てボクらに向かって「やあ。」って言った。するとお父さんは振り返り、ボクらを見かけると驚いているようだった。

 「おや?」ってお父さんは言った。「君たちそこで何をしてるのかね?」

 「手伝いに来てくれてるんだ。」ってクロテールが説明した。

 「どいとくれ、坊やたち。」って引越し屋さんが言った。

 「そうだ、そうだ」ってクロテールのお父さんは言って、すごくイライラした様子だった。「そこにいちゃダメだ。クロテール、お友だちをおまえの部屋に連れてって、クロゼットが空になっているか確かめておきなさい。ダイニングが終わったら、おまえの部屋に取り掛かるからな。」

 それで、お父さんが引越し屋さんたちにあれこれ指示している間に、ボクらはクロテールと一緒に彼の部屋に行ったのさ。

 

 すごく散らかってたんだ、クロテールの部屋は。藁を詰め込んだ荷箱がそこら中にあって、部屋の片隅には分解されたベッドと家具が置いてあった。クロゼットの扉は開いていて、中は空だったよ。

 「君が荷物を全部箱に詰めたのか?」ってボクはクロテールに訊いた。

 「ちがうよ」ってクロテールは言った。「それは引越し屋さんの仕事さ。ほら、沢山の藁と一緒に荷物を詰め込むんだ。」

 「ああ、おい!」ってメクサンが叫んだ。「君の消防車があるぞ!」

 ボクらは消防車を荷箱から出した。電池切れだったけど、すごくステキな消防車なんだ。するとクロテールはこう言ったんだ。まだボクらに見せていない砦があって、インディアンもついてる、ユリディスおばさんからもらったんだって。なかなか見つからなかったけれど、リュフュの奴が上手いこと荷箱の底の方から砦を取り出した。

 「藁は後でまた荷箱に戻しておこう」ってクロテールは言った。「床にいくらか残っても、構やしないよ。どっちみち、もうここには住まないからね。」

 クロテールの砦は素晴らしかったな、インディアンやカウボーイもついてたんだ。それに奴はボクが知らないミニカーも山ほど持ってた。

 「ボクの船は?君たち、ボクの船を見かけたか?」ってクロテールが訊いた。

 ボクらはクロテールを手伝って、マストと帆を取り付けた。何故って、船を荷箱に入れるには、勿論マストは外しておかなきゃならなかったからさ。

 「ところでさあ」ってジョアシャンが訊いた。「君の鉄道模型はどこにあるの?鉄道模型が見当たらないぜ。チェックしてよかったな!」

 「ああ、ちがうんだ」ってクロテールが答えた。「鉄道模型は別の荷箱に入っていて、もう引越し屋さんがトラックに積み込んじゃったんだよ。つまりね、この前ボクが停学になった時、父さんに没収されちゃったんだけど、その時から鉄道模型は両親の部屋のタンスに入っているからさ。」

 「でもなあ」ってリュフュが言った。「もしその荷箱に入れたままにしとくと、新しいアパルトマンに行ったとき、ご両親はまた自分たちのタンスに入れちまうよ。だけど、おまえが自分の荷箱に入れとけば、手元に置いとけるってわけだ。」

 クロテールはリュフュの言う通りだって言って、ボクに向かって、鉄道模型を返してって引越し屋さんに頼みたいから、下まで一緒について来てくれって言った。

 

 

 

 

 歩道には相変わらずクロテールのママが居て、引越し屋さんたちにサイドボードの扉がぶつかる件を説明してるところだった。それからクロテールの姿が目に入ると、おばさんの目つきが険しくなった。

 「歩道であんた何をしてるのよ?」っておばさんは言った。

 「えーと、電車を探しにきてたんだ。」ってクロテールが答えた。

 「電車?」っておばさんが訊いた。「どんな電車なの?」

 「鉄道模型の電車だよ」ってクロテールは説明した。「だってママとパパの荷箱に入れっぱなしにしとくと、二人のタンスにまた入れちゃうでしょ。だからボクはそれを自分の荷箱に入れるんだよ。だって、旧(もと)のアパルトマンでボクから取り上げた品物を新しいアパルトマンでもママとパパの手元に置くなんて良くないからさ。自分の荷箱に入れとけば、新しいリビングでボクは鉄道模型を使って遊べるからね。」

 「あんたの言ってることはさっぱり分からないわ」ってクロテールのママは叫んだ。「ママの邪魔をしないでさっさと上に戻ってちょうだい!」

 クロテールのママは真顔になっていたんで、ボクらはアパルトマンに戻った。するとクロテールのパパの怒鳴り声が聞こえた。それで僕らが部屋に入ると、おじさんはクロテールに向かってこう言ったんだ。

 「ああ、来たな! お前すっかり頭がいかれちまったな、まったく!荷箱を殆ど空にしちまったじゃないか!少しこの散らかりようを見てみるがいい!これからパパを手伝って荷物を全部元に戻すんだ、後で話があるからな!さあ、始めろ!」

 クロテールとおじさんは荷物と藁を荷箱に戻し始めた。すると引越し屋さんが二人部屋に入って来て渋い顔をした。

 「いったい何をやってるんです?」って引越し屋さんの一人が訊いた。「せっかく荷造りをしたのにまた出しちまったんですか?」

 「全部また入れ直すよ。」ってクロテールのパパが言った。

 「俺たちはもう知りませんよ!」って引越し屋さんは言った。「お客さんが荷造りするなら、こちらは責任取りませんからね!荷造りのことならこっちは慣れてるんだから。」

 「どいとくれ、坊やたち。」ってもう一人の引越し屋さんが言った。

 するとクロテールのパパはボクらをじっと見て、それから大きな溜め息をついてこう言ったんだ。

 「そう、その通り。子供たちは家に帰りなさい。それにもう遅いしな。もうじき我々は新しいアパルトマンに出発するんだ。それにクロテールは早く寝なきゃいかん。明日は荷物を全部出して整理しなきゃならんからな。」

 「もしよければ、ボクら手伝いに来ますよ。」ってボクは言った。

 すると、クロテールのパパはすごくステキだったんだ。こう言ったのさ。明日は日曜日だし、ボクらは今日よく働いてくれた。だからクロテールにお金を渡してボクらを映画に連れて行かせようってね。

 

(ミスター・ビーン訳)

 

 

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