*星の王子さま 翻訳(献呈の辞、第1章~第9章)* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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好きな音楽の話題を中心に、気の向くままに書いていきます。

星の王子さま

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-星の王子さま序文

朗読 ベルナール・ジロドー  34分50秒まで



レオン・ヴェルトに捧ぐ

僕は、この本をある大人に捧げたことを子供の皆さんにお詫びします。でも、それにはちゃんとした理由があります。その大人は、僕にとってこの世で最良の友なのです。もう一つ理由があります。僕の友人であるその大人は、全てが理解できるのです。たとえ子供向けの本であっても。三番目の理由は、その大人はフランスに住んでいて、腹を空かし、寒い思いをしているからです。彼を慰めてやらなければなりません。もしそれでも足りなければ、僕はこの本を子供の頃の彼に捧げたいと思います。大人は誰でも、最初は子供でした。(でも、殆どの大人がそのことを忘れています。)そこで、僕は献呈の辞をこう訂正します。

子どもの頃のレオン・ヴェルトに捧ぐ

レオン・ヴェルト
$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-レオン・ウェルト


第1章
6歳のころ僕は、あるときすごい絵を見たのです。それは原生林のことを書いた「本当にあったお話」という本の中にありました。その絵には大蛇のボアが猛獣を呑み込んでいるシーンが描いてあったのです。これが、その写しです。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第1章(1)

その本にはこう書いてありました。「大蛇ボアは獲物(えもの)を噛み砕かずに、丸のまま呑み込みます。するとボアはもう動けなくなり、獲物を消化する6か月の間、眠っているのです。」

そこで、ジャングルで起こる変わった出来事をあれこれ考え、今度は僕が色鉛筆を使って、首尾よくデッサン第1号を描き上げました。こんなデッサンです。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第1章(2)

僕は、大人たちにその傑作を見せて、「どう?こわいでしょう?」と訊(き)いてみました。

すると、大人たちは答えました。「帽子がなぜこわいの?」

僕のデッサンは帽子を描いたのではありません。象を消化している大蛇のボアを描いたのです。そこで、大人たちにも分かるように、ボアのお腹の中のデッサンを描いてあげました。大人にはしょっちゅう説明をしなくちゃなりません。僕のデッサン第2号は、こんなデッサンでした。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第1章(3)

大人たちは僕に、内側だろうが外側だろうがボアのデッサンなんか放っておいて、地理や、歴史や、計算や文法に興味を持ちなさいと勧めました。こうして僕は6歳のとき、画家という素晴らしい職業を諦(あきら)めたのです。デッサン1号とデッサン2号の失敗にがっかりしたわけです。大人は自分一人では、決して何も分からない。その度にしょっちゅう説明してやらなければいけない。だから子どもはうんざりしてしまいます。

そこで僕は別の職業を選ぶ羽目になりました。飛行機の操縦を習ったのです。世界中のあちこちの空を飛びました。そして、確かに、地理は大いに役立っています。僕は一目で、中国とアリゾナを見分けることが出来ました。夜間、迷った時にはとても役立ちます。

こうして僕は、これまで、沢山(たくさん)のちゃんとした人たちと沢山の お付き合いをしました。大いに大人の中で過ごしてきたのです。そして、大人というものを間近で見てきました。それでも大人について、僕の見方はあまり良くなりません。

少しは物わかりがいいと思える大人に会うと、例のデッサン1号を使って実験したものです。そのデッサンは捨てずに取っておきました。僕はその人が本当に物がわかる人なのか知りたかったのです。でも、その度(たび)に、返ってくる答えは、「帽子だよ」。そうなると、僕はその人とはボアや、原生林や、星の話はせずに、彼のレベルに合わせることにします。つまり、ブリッジやゴルフ、政治やネクタイの話をするのです。すると、その人は良識のある人物と知り合いになれたと大喜びするのでした。



第2章
こうして僕は、本当に話し合える人に会えぬまま、6年前、サハラ砂漠で飛行機が故障するまで一人で生きてきました。故障は、エンジンのどこかが壊(こわ)れてしまったためです。他に整備士も乗客もいなかったので、自分一人でなんとか困難な修理をやり遂げようと覚悟(かくご)しました。僕にとっては生死にかかわる問題です。飲み水はかろうじて8日分しかありません。

そこで最初の晩は、人里から千マイルも離れた砂の上で眠りました。大西洋の真ん中で筏(いかだ)に乗って遭難するよりはるかに孤立していたのです。ですから、明け方、奇妙なささやき声で目が覚めた時、僕がどれほど驚いたか想像がつくでしょう。その声はこう言っていました。

「お願い...僕に羊を描いてよ!」

「なんだって!」

「僕に羊を描いてよ...」

僕は雷に打たれたように跳び起きました。目をごしごしこすってよく見ると、ひどく変わった姿の坊やが見えました。そして真剣に僕を見つめているのです。これが後で僕が描き上げた一番ましなその子のポートレートです。しかし、勿論(もちろん)、僕のデッサンは実物の魅力には遠く及びません。でも僕のせいではない。6歳のときに、大人のせいで画家になる気持ちを失くし、ボアの外側と内側のデッサン以外、何もデッサンを習わなかったのですから。

そこで僕は驚いて目を丸くし、降ってわいたように現れたその子を眺(なが)めました。忘れないでください、僕は人里から千マイルも離れた所にいたのですよ。ところが例の坊やは、道に迷っている風もなく、疲労や空腹、喉の渇きや恐怖で死にそうになっている様子もなかったのです。その子には、人里から千マイルも離れた砂漠で迷子になったという様子は全くありませんでした。ようやく口がきけるようになると、僕はその子に尋(たず)ねました。

「しかし...君はそこで何をしてるの?」

するとその子は、とても重大なことのようにゆっくりと同じことを繰り返しました。

「お願い...僕に羊を描いてよ...」

謎が大きすぎると、人は逆らう気持ちを失くしてしまいます。人里から千マイルも離れ、死の危険に瀕(ひん)していても、それがどれほど馬鹿げているように思えても、僕はポケットから一枚の紙と万年筆を取り出しました。しかしそのとき、自分がそれまで地理と歴史と計算と文法を特に勉強していたことを思い出したのです。そこで(少々不機嫌に)坊やに向かって、自分にはデッサンは描けないと言いました。するとその子は答えました。

「かまわないよ。僕に羊を描いてよ。」

羊のデッサンは一度も描いたことはなかったので、自分が描けるたった二枚のデッサンのうち、一枚を描いてあげました。外側から見たボアのデッサンです。ところが、坊やの答えを聞いて僕は唖然(あぜん)としました。

「ちがう!ちがう!ボアのお腹の中にいる象なんか欲しくないよ。ボアはとても危険だし、象は場所をとりすぎる。僕が住んでいる所は、すごく小さいんだ。羊が要(い)るんだよ。僕に羊を描いてよ。」

そこで僕は描きました。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第2章(1)


その子は注意深く眺めてから、こう言いました。

「だめだよ!この羊はもうひどい病気だ。別のを描いて。」

そこで僕はまた描きました。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第2章(2)


その子は優しく、寛大な微笑(ほほえ)みを浮かべて、

「わかるでしょう...これは羊じゃない、山羊だよ。角があるし...」

そこで僕は、またデッサンを描き直しました。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第2章(3)


でも、これも前のデッサン同様ボツにされます。

「この羊は年を取りすぎてる。僕は長生きする羊が欲しいんだ。」

そこで、我慢も限界、早くエンジンの分解に取りかかりたかったので、僕はこんなデッサンを描きなぐったのです。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第2章(4)


そして吐き捨てるように言いました。

「こいつは箱だ。君が欲しがっている羊は中にいるよ。」

ところが幼いジャッジの顔がパッと輝くのを見て、僕はビックリしました。

「欲しかったのは、まさにこういう羊さ!ねえ、この羊にはたくさんの草が要るかなあ?」

「なぜだい?」

「だって、僕の住んでる所はとても小さいんだ...」

「きっと大丈夫さ。君にはごくごく小さな羊をあげたんだ。」

その子はデッサンに顔を寄せました。

「それほど小さくはないよ...おや!羊が眠ったよ...」

こうして僕は星の王子と知り合いになったのです。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第2章(5)
  これが後で僕が描き上げた一番ましな王子のポートレートです。



第3章
王子が何処(どこ)からやって来たのか分かるのに、長い時間がかかりました。王子は僕にはたくさん質問するのですが、こちらの質問は聞いていないようなのです。王子が偶然もらす言葉から少しずつ全てが明らかになりました。こうして、初めて僕の飛行機を見たとき(飛行機のデッサンは描きません。それは僕には込み入りすぎていて、手に負えないデッサンです)、王子は僕に尋(たず)ねました。

「あの物体は何?」

「物体じゃないよ。あれは飛ぶんだ。飛行機だよ。僕の飛行機さ。」

僕は自分が空を飛んでいると王子に教えるのが誇らしかったのです。すると王子は叫びました。

「何ですって!おじさんは空から落ちてきたの?」

「そうさ。」と、僕は控(ひか)え目に答えました。

「ああ!それは可笑(おか)しいや...」

そう言って、王子は晴れ晴れと大声で笑います。僕の方はひどくムッとしました。自分の不幸を真面目に受け取って欲しいと思っていたからです。それから、王子は言いました。

「それじゃ、おじさんも空から来たんだ!どの惑星から来たの?」

するとたちまち、この子がここにいる謎について一筋の光が見えたのです。そこで僕は、だしぬけに訊(き)いてみました。

「それじゃ、君は他の惑星から来たの?」

しかし王子はそれには答えず、僕の飛行機を眺(なが)めながら静かに首を振っていました。

「なるほど、あれに乗ってたんじゃあまり遠くからは来られないね...」

そう言うと、王子は長い物想いに耽(ふけ)るのです。それから、ポケットから僕が描いた羊を取り出し、宝物のようにじっと眺めていました。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第3章(1)

半ば打ち明け話のような形で分かった「別の惑星」について、僕がどれほど不思議に思い、好奇心を掻き立てられたか皆さんにもお分かりでしょう。そこで僕はもっと詳しい話を聞きだそうとしました。

「どこから来たんだい、坊やは?その『君の所』ってどこなの?僕の羊をどこへ持って行きたいの?」

王子は、無言のまま考えに耽(ふけ)った後、こう答えました。

「おじさんが僕にくれた箱で良い所は、夜には羊の家代わりになることだね。」

「勿論(もちろん)さ。それに、もし坊やがお利口にしていれば、昼の間、羊をつなぐ綱も描いてあげるよ。それに杭(くい)もね。」

王子はこの提案にショックを受けたようでした。

「羊をつなぐ?なんて変なことを考えるの!」

「でも、つないでおかないと、何処へ行くか分からないよ。迷子になっちまう...」

すると、この友人はまた大声で笑いました。

「でも、何処へ行こうって言うの!」

「何処でもさ。まっすぐ進んで行って...」

そう聞いて、王子はひどく真面目な調子でこう言ったのです。

「かまやしないよ、僕のいた所はすごく小さいんだ!」

そして、おそらく少し憂鬱な様子で、付け加えたのです。

「まっすぐ行ったところで、たいして遠くへは行けないんだよ...」


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第4章
こうして僕は、二つめのとても大事なことを知りました。王子が生まれた惑星はせいぜい家一軒分の大きさしかないということです。

僕は大して驚きませんでした。地球、木星、金星といった名前が付けられている大きな惑星の他にも惑星は何百もあって、それらは、ときに、とても小さいので望遠鏡で見つけるのにひどく骨が折れるのです。天文学者がそういった小さな惑星を見つけると、名前の代わりに番号を付けます。例えばこんな風に呼びます:「小惑星3251」。

僕には王子がやって来た惑星が小惑星B612であると信じるに足る確かな理由があります。その小惑星は、1909年、トルコのある天文学者によって一度だけ望遠鏡で観測されました。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-トルコの天文学者(1)

そこで彼は、国際天文学会でその発見を大々的に発表したのです。ところが誰も彼の言うことを信用しません。服装のせいで。大人ってそんなものです。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-トルコの天文学者(2)

ところが、小惑星B612にとっては幸いなことに、トルコの独裁者が国民に、違反したら死刑に処すると言って、ヨーロッパ風の服を着るように強制しました。
例の天文学者は、1920年、今度はとてもエレガントな服を着て、再び自分の発見を発表しました。すると今度は、誰もが彼の意見を認めたのです。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-トルコの天文学者(3)

小惑星B612についてこんなに詳しく語り、番号まで打ち明けたのは大人のためです。大人はなにしろ数字好きですから。大人相手に新しい友達のことを説明するとき、大人は決して肝心なことについては質問しません。つまり、決してこんな質問はしないのです。「どんな声をしているの? 好きな遊びは何? 蝶々を集めている?」 代わりに訊(き)いてくることと言えば、「何歳なの? 兄弟は何人?体重は? お父さんの稼ぎは?」 それでようやく友達のことが分かったと思い込みます。もしも大人に向かって、「バラ色のレンガでできた綺麗な家を見たよ。窓にはゼラニウムが飾ってあって、屋根には鳩がとまってるんだ。」と言っても、大人はその家を想像することができません。大人にはこう言わなくちゃいけない。「10万フランもする家を見たよ。」すると大人はこう叫びます。「なんて綺麗な家なんだ!」

だから、もし大人に「王子は本当にいたんだ。その証拠に、素敵な子で、よく笑うし、羊を欲しがっていたんだ。羊を欲しがってるってことは、本当にいるっていう証拠だよ。」と言ったら、大人は肩をすくめ、こちらを子ども扱いするでしょう!
でも、「王子がやって来た惑星は、小惑星B612だよ。」と言ってやれば、大人は納得し、あれこれうるさく質問してくることはありません。大人ってそんなものです。だからって、大人を恨(うら)んではいけない。子供は大人を大目に見てあげなくちゃいけない。

でも、もちろん、人生が分かっている僕ら子供は、数字なんか糞くらえです! 
僕はこの物語をお伽噺を語るように始めたかった。つまり、こうです。「昔、一人の王子がおりました。彼は、自分の身の丈ほどの大きさの惑星に住んでいて、友達が必要だったのです…」 人生が分かっている人なら、その方がずっと本当らしく聞こえたでしょう。

なぜって、ぼくは自分が書いたこの本を軽い気持ちで読んで欲しくないのです。この思い出を語るとき、僕は深い悲しみを感じています。僕の友が羊をつれて去って行ってからもう6年になります。この本で、僕が彼の姿を詳(くわ)しく描こうとしているのは、彼を忘れないためです。友達を忘れるなんて、悲しいことです。皆が皆、友達がいたわけではないのですから。それに、僕も、もう数字にしか興味のない大人になってしまうかもしれません。だからこそ僕は絵具を一箱、それに鉛筆を買ったのです。この歳でまたデッサンを始めるのは辛い。なにしろ、6歳の時にボアの外側と内側のデッサンを描いてから、一度もデッサンなんてやったことはないのだから。もちろん、出来る限り王子の姿に似た肖像画を描こうと努力はしてみます。でも、上手くできるかどうか、あまり自信はありません。一枚は上手く描けても、次の一枚はもう似ていない。王子の背丈については、少々間違いがある。こちらのデッサンでは王子は背が高すぎるし、あちらのデッサンでは背が低すぎるという具合です。王子の服の色にも迷いがある。というわけで、あれやこれやと手探りをしてどうにか描いています。それに、細かな、もっと大事なことについても間違っているかもしれません。でも、その点は勘弁して頂きたい。なにしろ僕の友は、一度も説明ということをしてくれなかったのだから。多分、王子は僕を自分と似た人間だと思っていたのです。でも、不幸なことに、僕は王子のように箱の外から中にいる羊を見ることなどはできません。おそらく僕は、少々大人になりかかっているのです。きっと、歳を取ってしまったのですね。



第5章
日毎に王子のいた惑星や出発の様子、旅の様子が分かってきました。それは王子の折々もらす言葉から少しずつ分かってきたのです。こうして、三日目に僕はバオバブの木がもたらす悲劇のことを知りました。

今度もまた、それは羊のおかげでした。というのも、だしぬけに王子がこう訊(き)いたのです。それも、いかにも不安だという様子で。
「羊が小さな木を食べるって本当だよね?」
「うん、本当だ。」
「ああ、よかった!」
僕には、羊が小さな木を食べることが何故そんなに大事なのか分かりませんでした。
でも、王子は重ねてこう訊いたのです。
「ということは、羊はバオバブの木も食べるの?」
そこで僕は王子に指摘してやりました。バオバブは小さくはなく、教会ほどの大きさの大きな木だ。だから象の群れを連れてったって、バオバブ一本食い尽くすことはできないと。
象の群れと聞いて、王子は笑いました。
「象だったら、積み重ねておかなきゃならないね…」

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しかし王子は、賢(かしこ)くもこう言ったのです。
「バオバブだって、大きくなる前、つまり最初は小さいでしょう。」
「ごもっとも! でも、なぜ羊にバオバブの苗を食べてほしいの?」
すると王子は、まるで当たり前のことだと言わんばかりにこう答えました。
「だって、そうでしょう!」
そこで、この問題を自分一人で理解するために僕は大いに頭を悩まさなければならなかったのです。

実際、どの惑星でも同じですが、王子の星にも良い草と雑草がありました。従って、良い草の良い種と雑草の悪い種があるわけです。しかし、種は人目につきません。種は、そのうちの一つが目を覚まそうという気になるまでは地面の奥深くで眠っているのです。目を覚ますと種は伸びをし、まずおずおずと太陽に向かって害のない素敵な小枝を伸ばします。それがラディッシュやバラの小枝なら、伸びるに任せておけばいい。でもたちの悪い植物となると、分かりしだいすぐに引き抜かなければなりません。ところで、王子の惑星には恐ろしい種がありました… それは、バオバブの種です。 惑星の土壌はバオバブの種がはびこっていたのです。ところで、バオバブの場合、対処があまりにも後手(ごて)に回るともう二度と駆除することはできません。惑星全体にはびこり、根で惑星に穴をあけてしまう。そこで、惑星があまりにも小さく、バオバブがあまりにも多ければ、惑星はバオバブのせいで破裂してしまいます。

「それは規律の問題なんだ」と後に王子は言ったものでした。「朝の身づくろいが終わったら、念入りに惑星の手入れをしてあげなきゃね。バラとバオバブの区別がついたらすぐにバオバブを引っこ抜く、それを日課にしなくちゃいけないんだ。なにしろ苗木のとき、バオバブはバラにそっくりだから。すごく煩(わずら)わしいけど簡単な仕事だよ。」

そしてある日、王子は僕に、がんばって立派なデッサンを描き、僕の惑星の子供たちの頭にそれを叩き込んだらどうかと勧めました。「いつか子供たちが旅に出るとき」と王子は言いました。「それが役に立つかもしれないよ。仕事を先に延ばすことが不都合じゃない場合もあるさ。でも、バオバブ相手にそれをやったら、ひどいことになるんだ。僕が知ってる惑星で、怠け者が住んでいる惑星があってね、彼はバオバブを3本放っておいたのさ…」

そこで僕は、王子の指示に従ってその惑星のデッサンを描きました。僕は説教じみた話をするのはあまり好きじゃありません。でも、バオバブのもたらす危険が殆ど知られていないので、それに小惑星に迷い込んだら、その人は大変な危険を冒すことになるので、あえて一度だけ例外をもうけます。声を大にして言いましょう、「子供たち! バオバブにご用心!」。僕がこのデッサンにこれほど力を注いだのは、警告するためです。わが友である子供たちに、ある危険を、僕同様それとは知らずに、彼らが昔から危(あや)うく冒(おか)すところだったある危険を知らせるためなのです。僕が伝える教訓は、苦労してデッサンを描くだけの価値がありました。君たちは多分こう思うだろう、「なぜこの本の中には、バオバブのデッサンほど壮大なデッサンがないんだろうか?」と。答えは簡単明瞭(めいりょう)。やってみたけど、上手くいかなかったのだよ。僕がバオバブを描いたときは、「これは、緊急事態だ!」という気持ちに突き動かされていたのです。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-星の王子様 第5章(3)


第6章
ああ! 王子よ、僕はこうして少しずつ君の憂(うれ)いに満ちた生活がわかってきたのだ。長い間、君には気晴らしと言えば心地よい夕日を眺(なが)めることしかなかったのだね。僕がその新しい事実を知ったのは、4日目の朝、君がこう語ったときだった。

「僕は夕日が大好きなんだ。夕日を見に行こうよ…」
「でも、待たなくちゃならないよ…」
「待つって、何を?」
「日が沈むのを待つのさ。」

君は最初、とても驚いた様子だった。それから自分のことが可笑(おか)しくなって、こう言って笑ったのだ。

「僕は相変わらず自分の惑星にいる気になってる!」

そうだね。誰でも知っていることだが、アメリカで正午になるとフランスでは日が沈む。だから夕日を見るには、一分でフランスに行ければ十分なのだが…
残念ながら、フランスはあまりにも遠すぎる。でも君の小さな惑星ではほんの数歩分、椅子を引っぱれば十分だったのだ。そして、夕暮れの風景を眺めたくなるたびに、君はそれを眺めていたのだね。

「僕は1日で44回も日が沈むのを見た日もあったよ!」

それから少しして、君はこう付け加えた。

「ねえ…すごく悲しいときには、夕日が好きになるんだよ…」
「それじゃ、44回夕日を見た日、君はとても悲しかったの?」

でも、王子はそれには答えませんでした。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-星の王子さま第6章


第7章
五日目、今度も羊のおかげで、王子のこれまでの生活の秘密が明らかになりました。王子は出し抜けに、前触れもなく僕に訊いたのです。それは、長い間、無言のままある問題を考え抜いた末の質問のようでした。

「小さな木を食べるなら、羊は花も食べるの?」
「羊は手当たり次第、何でも食べるよ。」
「棘(とげ)のある花でも?」
「そうさ。棘のある花でもね。」
「じゃ、棘は何の役に立つのさ?」

僕には分かりませんでした。そのときは、エンジンの固く締まりすぎたボルトを緩めようと躍起(やっき)になっていたのです。ひどく不安でした。というのも、飛行機の故障がひどく深刻なものに思えてきたからです。それに、飲み水が無くなりかけていて、僕は最悪の事態になることを恐れていました。

「ねえ、棘は何の役に立つの?」

王子は一度質問すると、答えを聞くまでは決してあきらめないのです。

「棘なんて、何の役にも立たないさ。花はただ意地悪をするためだけに棘をつけてるんだ!」
「ええ!」

しかし、王子はちょっと黙った後、恨(うら)みを込めて僕を非難しました。

「そんなの嘘だ! 花は弱いんだ。花は世間知らずなんだ。出来るだけ自分を安心させたいんだ。花は棘があれば周りが怖がると思ってるんだ…」

僕は何も答えませんでした。そのとき、こう思っていたのです。「このボルトが緩(ゆる)まないようなら、ハンマーでひっぱたいて吹き飛ばしてしまおうか。」 王子がまた僕の考えを邪魔(じゃま)しました。

「それなのに、おじさんの考えときたら、花は…」
「いや違う! 違うんだよ! 僕は何も考えちゃいないさ! 出まかせを答えたんだ。僕は今、真面目なことで忙しいんだ!」

王子はあっけにとられて僕を眺めました。

「真面目なことだって!」

王子は、手にハンマーを持ち、グリースで指を真っ黒にして、王子にはひどく醜く思える物体に身をかがめている僕の姿を眺めていました。

「おじさんは大人みたいな話し方をしている!」

その言葉に、僕は少し恥ずかしくなりました。しかし王子は、情け容赦(ようしゃ)なくこう続けました。

「なにもかもごっちゃにしてる…おじさんはなにもかもごたまぜにしてるよ!」

王子は本当にひどく腹を立てていて、金色の髪を風になびかせていました。

「僕が知っている惑星に、赤ら顔の男の人がいる。彼は一度も花の香りを嗅いだこともないし、一度も星を見たこともなかった。彼は決して人を愛さなかった。足し算以外のことは一度もしたことはなかったんだ。そして、一日中、おじさんのように繰り返しているのさ、『私は真面目な人間だ! 私は真面目な人間なんだ!』って。そう言って彼は鼻高々なんだ。でもそんなの人間じゃない。キノコさ!」
「何だって?」
「キノコだよ!」

今や、王子の顔色は怒りですっかり青ざめていました。

「何百万年も前から花は棘を作っているんだ。何百万年も前から羊は花だっておかまいなしに食べているんだ。 それなのに、花がなぜあれほど苦労して何の役にも立たない棘を作るのか、その理由を理解しようとすることが真面目なことじゃないって言うの? 羊と花の戦いが大事なことじゃないって言うの? 赤ら顔の太っちょのおじさんの足し算ほどは真面目でもないし大事でもないって言うの? 僕が世界でただ一つの花、僕の惑星以外どこにもない花を知っていて、その花をある朝、自分が何をしているか分からずに、羊がパクッと一口で食べて台無しにしてしまう、それが大事なことじゃないって言うの!」

王子は顔を真っ赤にして、再び言葉を続けました。

「もしだれかが、何百万もある星の中で一輪だけ咲いている花を愛しているとする。その人が満天の星を見て幸せになれるにはこう思えば十分なんだ。 つまり、『僕の花は、あのどこかにいるんだ…』って。 
でも、もし羊が花を食べちゃったら、その人にとっては全ての星が突然消えてしまうようなものだ! それが大事なことじゃないって言うの!」

王子はそれ以上何も言えなくなりました。彼は、突然、激しくすすり泣いたのです。もうすっかり夜になっていました。僕は道具を放り出していました。ハンマーも、ボルトも、喉(のど)の渇きも、死ぬことも、そんなことはもうどうでもよくなったのです。 一つの星の上に、一つの惑星の上に、僕の惑星つまり地球の上に、慰(なぐさ)めてやらなくてはいけない一人の王子がいたのです。僕は王子を両腕に抱きしめ、やさしく揺すりました。 そして王子にこう言っていたのです。「君が愛している花は、危険な目にあわないよ… 君の羊に口輪を描いてあげよう… 君の花には鎧(よろい)を描いてあげるよ… 僕は…」 もう何と言ってよいか分からなくなっていました。 自分がひどく不器用に感じていたのです。どうしたら王子の心に届くのか、どこで王子の気持ちと共感できるのか分からなくなっていたのです・・・ 涙の国、それは本当に不思議なものです。


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第7章



第8章
僕はすぐにその花のことをもっと詳(くわ)しく知るようになりました。その花が現れる前にも王子の惑星に花はあったのです。でもそれらはとても質素な花で、花びらは一重(ひとえ)、少しも場所を取らず、だれの邪魔にもならなかったのです。それらはある朝、草の中に姿を現し、夕方になると姿を消していました。でもその花はある日、何処からともなく運ばれた種から芽を出していたのでした。そこで王子はその小枝から目を離さなかったのですが、それは他のどの小枝とも違っていました。ひょっとして、新種のバオバブかもしれない。でもその小さな木はすぐに成長を止めて花をつけ始めたのです。王子は並外れて大きな蕾(つぼみ)ができるのを目の当たりにして、そこから素晴らしい花が咲くかもしれないと強く感じていたのです。しかしその花は緑の小部屋に身を隠し、たっぷり時間をかけて装(よそお)いを凝らしていました。彼女は入念に色を選び、ゆっくりと服を身にまとい、花びらを一枚一枚調整していたのです。ヒナゲシのように皺(しわ)くちゃな姿で出てきたくはなかったのです。彼女の望みは唯一つ、輝くような美しさで姿を現すことでした。そうなんです!彼女はとても艶(あで)やかだったのです!彼女はそれこそ何日も何日も、人目を避けて化粧をしていたのでした。そして突然、ある朝、まさに日の出と同時にその姿を現したのでした。

そして彼女は、これほど念入りに身づくろいをした後で、欠伸(あくび)をしながらこう言いました。
「ああ! まだ目が覚めきってないわ… ごめんなさいね… 私ったら、まだ髪がくしゃくしゃ…」
王子はそのとき、感嘆の念を抑えることができませんでした。
「何て美しいんだろう!」
「そうかしら?」と静かに花は答えました。「それに私、お日様と一緒に生まれたのよ…」

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第8章(1)

王子には、彼女があまり控え目な花ではないことがすぐわかりました。しかし、その姿は本当に感動的だったのです!
まもなくして、「ねえ、朝ごはんの時間だわ」と彼女は言いました。「私のことを考えていただけるかしら…」

すると王子は、あわてふためいて冷たい水の入った如雨露(じょうろ)を取りに行き、花に水をかけてあげました。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第8章(2)


こうしてたちまち、王子は彼女のちょっと気難(きむずか)しい虚栄心に苦しめられることになったのです。例えば、ある日、彼女は自分の4本の棘(とげ)を話題にして、王子にこう言いました。
「虎が爪を立ててやって来たってへっちゃらだわ!」

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第8章(3)

「僕の惑星に虎なんかいないよ」と王子は抗議しました。「それに、虎は草なんか食べないさ。」
「私は、草じゃなくってよ。」と花はゆっくりと答えました。
「ごめんなさい…」
「私、虎なんかちっとも怖くない。でも、風は大嫌いなの。 あなた、ついたてはお持ちかしら?」
「風が大嫌いなのか… 草花にしては生憎(あいにく)だなあ」と王子は思いました。 「この花はひどく気難しい…」
「夜には私にガラスの器をかぶせてね。 あなたの惑星はとても寒いわ。 設備が整ってないのね。私の惑星なんか…」

でも、彼女はそこで口をつぐんでしまいました。 彼女は種の姿でやって来たのです。 だから王子の惑星以外、他の世界のことなど知るはずもなかったのです。こんな他愛のない嘘をつこうとして、それを見破られたことが恥ずかしくなり、まるで王子が悪いのだと言わんばかりに2,3度咳(せき)をしたのでした。
「そのついたては?」
「ぼくが探してきたんだ。だって、さっき言ってたでしょ!」
すると彼女は、それでも王子を後悔させてやろうとばかりに無理やり咳をしたのです。

$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第8章(4)

こうして王子は、花を愛する熱い想いに変わりはなかったのですが、たちまち彼女が信用できなくなったのです。王子は花の他愛のない言葉を真に受けて、とても惨(みじ)めな気持ちになったのです。

「僕は彼女の言葉に耳を傾けるべきじゃなかった」と、ある日、王子は僕に打ち明けました。「決して花の言うことに耳を傾けてはいけないんだ。 花は、それを眺めて、香りを嗅がなくちゃいけない。僕の花は、僕の惑星を素敵な香りで満たしてくれていた。それなのに僕はそれを楽しむ術(すべ)を知らなかった。あの虎の爪の話に僕はひどくイラついてしまったけど、逆に優しい気持ちになるべきだったんだ…」

王子はさらに打ち明けました。
「あの時、僕は何もわかってなかった! 彼女のことをその言葉ではなくて行動で判断すべきだったんだ。 彼女は僕を素敵な香りで満たしてくれたし、僕の気持ちを明るくしてくれた。僕は決して逃げ出すべきじゃなかった! 彼女の他愛のない企(たくら)みに隠された優しい気持ちを分かってあげるべきだったんだ。 花って、ほんとに矛盾だらけなんだよ!でも僕は若すぎてそんな彼女を愛してあげることができなかった。」


$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第8章(5)


第9章
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思うに、王子は自分の惑星を逃げ出すとき野鳥の渡りを利用したのです。出発の日の朝、王子は惑星をきちんと整理整頓しました。念入りに活火山の煤(すす)払いをしたのです。惑星には活火山が二つありました。朝食を温めるにはとても便利だったのです。死火山も一つありましたが、王子も言っていたように、「爆発しないとはかぎらない!」のです。そこで王子は死火山も同じように煤払いをしておきました。よく煤をはらっておけば、火山は穏やかに規則的に燃えて爆発はしないのです。火山の爆発は煙突の火と同じことです。無論地球では、我々人間はあまりにも小さすぎるので火山の煤払いなどはできませんが。そこで火山は我々にいろいろ迷惑をかけることになるのですね。
$ミスター・ビーンのお気楽ブログ-第9章(2)
王子はまた、ちょっと憂鬱(ゆううつ)な気分で芽を出したばかりのバオバブを引き抜きました。彼は、もう二度とこの惑星に戻って来てはならないと思っていたのです。でもその日の朝は、こうした慣れ親しんだ作業が、全てひどく心地よいものに思えたのです。そして花に最後の水遣(みずや)りをし、ガラスの容器に入れる準備をしたとき、王子は泣きたい気持ちになっていることに気づきました。

「さようなら(アディゥ)」と、王子は花に言いました。

しかし、花は返事をしません。

「さようなら(アディゥ)」と、王子は繰り返しました。

花は咳(せき)をしました。でも、それは風邪のせいではなかったのです。

「私、馬鹿だった」花はとうとう口を開きました。「ごめんね。 幸せになるのよ。」

王子は、花の言葉に非難の気持ちが無いことに驚きました。彼は呆然(ぼうぜん)として、手にガラスの器を持ったままそこに立ちつくしていました。花の穏やかな優しさが理解できなかったのです。

「もちろん、あなたを愛してるわ」と、花は王子に言いました。「あなたはそれがちっとも分らなかった、私のせいでね。でも、そんなことはどうでもいいわ。あなたも私も馬鹿だったのね。幸せになってね… ガラスの器なんか放っといてよ。わたしもういらないから。」

「でも、風が…」

「私の風邪は大したことないの… 冷んやりした夜風はきっと気持ちがいいわ。私は花なんだもの。」

「でも、動物が…」

「もし蝶々と知り合いになりたければ、芋虫の2,3匹はちゃんと我慢しなければね。蝶々ってすごく綺麗なんですって。でなきゃ、誰が私の所なんかに来てくれるの?あなたは遠くに行っちゃうし。大きな動物なんかちっとも怖くない。私には爪があるんだから。」

そして彼女は、健気(けなげ)に4本の棘(とげ)を見せるのでした。それからこう付け加えました。

「そんな風にぐずぐずしないでよ、イライラするわ。出て行くって決めたのよ。行きなさいよ。」

というのも、彼女は王子に泣いている姿をみられたくなかったのです。それは本当にプライドの高い花でした…


(ミスター・ビーン訳)