*フィッシャー・ディスカウとシューベルト歌曲(27) -別れー* | ミスター・ビーンのお気楽ブログ

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〈シューベルトの恋②〉
シューベルトは1818年7月~11月まで、ハンガリー系大貴族である
エステルハージ伯爵の二人の娘、マリーとカロリーネのピアノ家庭
教師として、伯爵の別荘のあるジェリズ(現スロヴァキア南部ジェ
リエゾフツェ)に赴任しました。
シューベルトはこれでようやく父の家を出て、教職と訣別すること
が出来たわけです。

シューベルトは下の娘カロリーネに恋していたようであり、それは
シューベルトの友人たちの間でもかなり有名でした。
ただ、余りにも身分が違いすぎることと、仮にカロリーネがシュー
ベルトに好意を抱いていたにしても、それは才能ある音楽家に対す
る尊敬の念にすぎなかったようです。
まあ、シューベルトの片思いだったわけですね。

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カロリーネ・エステルハージ


ところで、1933年のオーストリア映画「未完成交響曲」で、シュー
ベルトとカロリーネの授業の場面があります。
シューベルトがカロリーネに「セレナード」の楽譜を渡し指導する
場面ですが、この曲は「レルシュターブ歌曲集」の第4曲ですから
作曲されたのは1828年です。
シューベルトが家庭教師をしたのは、1818年と1824年ですから、ま
あ、この場面は真っ赤な嘘ということになりますね(笑)
フィクションとしては面白いですが…
主演はシューベルト役がハンス・ヤーライ、カロリーネ役がマルタ・
エゲルトです。


映画「未完成交響曲」



〈今日の1曲〉
今日は、レルシュターブ歌曲集の第7曲、


「別れ(Abschied)」

です。

「別れ」と言っても悲しい曲ではなく、楽しい思い出の
詰まった町に別れを告げ、新たな希望に燃えて出発する
心弾む別れの歌です。

ピアノは馬の蹄の音、あるいは高鳴る胸の鼓動を巧みに
表し、歌は変化に富んだ有節形式で陽気な気分を歌い上
げます。


今日もDFDと、テノールのギューラの歌唱でお楽しみ下さ
い。


Abschied 別れ
Ade! du muntre, du fröhliche Stadt, ade!
Schon scharret mein Rößlein mit lustigen Fuß;
Jetzt nimm noch den letzten, den scheidenden Gruß.
Du hast mich wohl niemals noch traurig gesehen.
So kann es auch jetzt nicht beim Abschied geschehn
Ade! du muntre, du fröhliche Stadt, ade!


さよなら!陽気な、たのしい街よ、さよなら!
僕の馬はもう意気込んでひづめで地を掻いている。
それでは最後の、別れの杯を受けてくれ。
おまえが僕を悲しげに見送ったことなどなかった。
だからこの別れの際にもそんなことはないだろう、
さようなら!陽気な、たのしい街よ、さようなら!


Ade! ihr Bäume, ihr Gärten so grün, ade!
Nun reit' ich am silbernen Strome entlang,
Weit schallend ertonet mein Abschiedsgesang;
Nie habt ihr ein trauriges Lied gehört,
So wird euch auch keines beim Scheiden beschert.
Ade! ihr Bäume, ihr Gärten so grün, ade!


さようなら!緑の木々と庭たちよ、さようなら!
いま僕は銀色の小川に沿って馬を走らせながら、
辺りに僕の別れの歌を高らかに鳴り響かせよう。
おまえが悲しい歌を聴いたことなど無かった、
だからこの別れの時にもそんな歌は捧げはしない。
さようなら!緑の木々と庭たちよ、さようなら!


Ade! ihr freundlichen Mägdlein dort, ade!
Was schaut ihr aus blumenumdufteten Haus
Mit schelmischen, lockenden Blicken heraus?
Wie sonst, so gruß' ich und schaue mich um,
Doch nimmer wend' ich mein Rößlein um.
Ade! ihr freundlichen Mägdlein dort, ade!


さようなら、やさしい少女たちよ、さようなら!
おまえたちは花香る家から何を見ているんだ?
お茶目な、誘うような眼差しで。
これまで通り、僕は挨拶して振り返る、
だけど決して僕の馬を引き戻しはしない。
さようなら、やさしい少女たちよ、さようなら!


Ade! liebe Sonne, so gehst du zur Ruh', ade!
Nun schimmert der blinkenden Sterne Gold.
Wie bin ich euch Sternlein am Himmel so hold;
Durchzieh'n wir die Welt auch weit und breit,
Ihr gebt überall uns das treue Geleit.
Ade! liebe Sonne, so gehst du zur Ruh', ade!


さようなら、沈みゆく愛しい太陽よ、さようなら!
いまや金色に瞬く星たちがきらめいている。
どれほどおまえたち天上の星々に和まされるだろう。
この世界を遠く、広く旅する時、
おまえたちはどこでも忠実な道連れとなってくれる。
さようなら、沈みゆく愛しい太陽よ、さようなら!


Ade! du schimmerndes Fensterlein hell, ade!
Du glänzest so traulich mit dämmerndem Schein,
Und ladest so freundlich ins Hüttchen uns ein.
Vorüber, ach, ritt ich so manches Mal,
Und wär' es denn heute zum letzten Mal?
Ade! du schimmerndes Fensterlein hell, ade!


さようなら、明るくきらめく窓よ、さようなら!
おまえはたそがれの輝きでそんなに物憂げにきらめき、
小屋の中へと優しく僕らを招き入れる。
その前を、ああ、僕も幾度と無く通ったものだ、
それも今日で最後となるのだろうか?
さようなら、明るくきらめく窓よ、さようなら!


Ade! ihr Sterne, verhüllet euch grau! Ade!
Des Fensterlein trübes, verschimmerndes Licht
Erstzt ihr unzähligen Sterne mir nicht;
Darf ich hier nicht weilen, muss hier verbei,
Was hilft es, folgt ihr mir noch so treu!
Ade! ihr Sterne, verhüllet euch grau! Ade!


さようなら、星たちよ、灰色に薄れゆけ、さようなら!
くすんだ窓に、消えてゆく光にも
僕にとっておまえたち数知れぬ星々も代わりにはならない。
僕がここに留まれず、去っていくしかないのなら、
何になろう、おまえたちが忠実について来たところで!
さようなら、星たちよ、灰色に薄れゆけ、さようなら!


フィッシャー・ディスカウ(ピアノ:ジェラルド・ムーア)

ヴェルナー・ギューラ(ピアノ:クリストフ・ベルナー)