すべての短編が人生のすれ違いや過渡期の一瞬を切り取っている

とても大人な本だった。若いときに読んだら、特に何も思わなかったのではないか。

 

一番鮮明だったのは、夜ひそやかに渡されたトロフィーの輝きだった。

暖かく、冷たい。

 

老歌手のベネツィアでのさいごの歌、心に震えるものがあった。

愛があれど別れを選ぶ前進、とは。前時代的かもしれないが、他編を通じても社会と個人のはざまにおこることを第三者的人物を通して書くのは秀逸だった。

離れてもなお、私が進む道を支えてくれるその言葉を、愛とよぶのだろうか

 

30になるその日にあの地に立つ事だけを考えて、きっとそうしているんだろうと、遠く思っていたけれど、すぐそこにきていた

くちびるでそっとよぶだけで、懐かしさがこみ上げたよ

きっと私は行かない。それがいまの答え。

特別になりたい私の、なんてことない答え。

 

その言葉だけで、十分、これからも歩いていける。

はりさけるようなことはもうないとおもっていた
彼方をみていたあまりに気づけなかった

賽は投げられた