不定期連載小説「イツワリノカミノケ」第1話 | じゃどひどぶろぐ

不定期連載小説「イツワリノカミノケ」第1話

「くそっ・・・くそっ・・・」
その男は大粒の涙を流しながら嗚咽し
柱にもたれながら床を殴り続けていた
地下鉄ホームの一角は異常な空気に包まれ、
周囲の人は皆、見下したような視線を彼に向けた後、
何事もなかったかのように通り過ぎていく
「俺が何をしたって言うんだ・・・」
誰にも聞き取れないほど小さな声でそうつぶやくと
こちらに近づいてくる足音が聞こえた


「よかったら話を聞かせてくれないか」


泣きじゃくり、涙でくしゃくしゃになった顔をあげると
そこには小柄な初老の男が立っていた
「・・・・・・」
すぐに下を向き、話すことさえ出来ない状態だった。
それでも初老の男は話してくれるを待ち続けた


落ち着いてきた男は、語りだす
「実は・・・」
会社で人間関係がうまくいってないこと、お金が貯まらないこと
彼女が出来ないこと、友達がいないこと
ほかにも様々な深刻な問題から些細なことまで
相手のことは気にせず雪崩のように喋り続けた


初老の男はしっかりと話を聞き、こう切り出した
「なるほど・・・では自分を変えようという意思はあるか?」

その問いに疲弊しきった男は答える
「変わりたいとは思っても人間はそう簡単に変われるものじゃない」


そう言われた初老の男は笑みを浮かべて問いただす
「確かにそうだ、願望だけじゃ変わるはずもない。
 だが、君はそれを実行に移したことが今まであるのかね?」
「・・・、実行か」
思い返せば変わりたいという思いだけで、自分は何もしていない
明日になったら何か変わっているかもと思い続ける日々だった


「お節介と思うかもしれないが、君の人生を変えるお手伝いをしたい」
初老の男はコートから一枚の紙を取り出し差し出す
「気が向いたらでいい、ここに向かえば私は居る」
そう言い残すと男は去っていった。
渡されたのは日焼けし、ほのかにかび臭い紙
そこには地図が詳細に書かれていた
「行ってみるか暇つぶしに。ヤクザか闇組織なのか知らないが
 俺殺されるのかな、ハハッ。まぁどうでもいいか」
自嘲気味に笑いながら重い腰を上げ、男は駅を後にした


〓つづく〓