2023年2月21日、寒さによる不調の1週間を乗り越えた照之は筆者にこう誓った。

 

おれはもう遅刻をしない

 





当研究室の始業時間が9時であることは周知の事実である。


しかし、修論発表も終了したこの頃、倦怠感の漂う研究室では9時に間に合わない者が続出している。


その中で、遅刻筆頭候補の朝倉未来と並び称されるのが照之である。照之は佐賀出身のため寒さに弱く、連日の厳しい冷え込みにその体を蝕まれていた。


さらには、実験をしても先の見通しが立たない、課金したアプリはつまらない、日常生活のなかでおもしろいことが見つからない、などシブがき隊もびっくりのNAI-NAI-NAI状態である。

さしずめNAI・NAI 23といったところか。




このような状態で心身の健康を保つのは、いくら照之でも無謀なことなのだろう。近頃は大好きな銀座クラブ巡りも鳴りを潜め、夜には裸のホステスではなく"やるしかねえ"パソコンとカラムに向かうのみである。このような生活で照之が満足できるはずはない。疲労は蓄積し、朝の寒さも加わって布団から出られないことは容易に想像がつく。

そんな中、気温とともに気力を回復しつつある照之が何食わぬ顔で11時出勤をした2023年の2月21日、ふと放ったのが上述の言葉である。照之の一度誓ったことを固く守る、律儀で頑固な性格は有名であり、ナルトさながらと多くの人間から評価されている。




これまでにも、ある調査で成功率10%である自力での禁煙に取り組み、見事成功させている。

そんな照之が誓った"遅刻をしない"という誓約の重みは如何ほどであるか、読者諸賢には伝わっていることであろう。一度やると決めたことをやり遂げられる人間は非常に少ない。

これらのことは社会心理学で名を馳せたロバートの名著、「影響力の武器」にも紹介されている。


人間はそもそも嘘や矛盾を抱える生き物であり、そうであるからこそ一貫性のある人間に魅力を感じる、といったものである。読者諸賢はあるものごとについての見方、考え方を10年後、30年後も持ち続けていられるだろうか。そのような人間ばかりならば、今頃日本はウルトラマンとB'zのオマージュバンドばかりになっているだろう。しかし、現実はそうはならない。人は精神の発達や周りの環境に影響され、その時々で考え方を柔軟に変える生き物である。小さい頃憧れたウルトラマンは、実は仮装して周りを小さくすれば簡単になれてしまうといった現実に気づいた人も多かったであろう。

またどれだけ音楽を突き詰めても、圧倒的なギタースキルと作曲技術をもち、多彩なメロディーを生みだし奏でてしまうギタリスト松本孝弘や、理系でありながら尾崎放哉も顔負けの作詞能力をもち、迫力満点のシャウトやMJにもひけをとらないステージ捌き、ファン全員を笑い泣かせてしまうくりぃむしちゅー上田も思わず教えを請うようなMCをしてしまう無欠の超人、筆者も敬愛し私淑しているボーカリスト稲葉浩志からなる世界最高峰のロックバンド、B'zのオマージュなどできるわけがないと悟るのは至極当然のことなのである。



話はそれてしまったが、嘘や矛盾を両手に抱え、それも人であると悟ることは、人間関係を構築し、相手を尊重するうえで悪くないことであると考えられる。

だが照之という人間には嘘や矛盾がない。これと決めたことはやり続ける、確かな信念をもった貴重な人間なのである。そんな照之の姿に、筆者もかくありたいものだと日々羨望の眼差しを向けている。

そして来たる2023年2月22日、コトは起こった。


てる来てねえじゃん

驚天動地、青天霹靂、寝耳に水、藪から棒、ショッキングでセンセーショナルな出来事であった。しかし、まだ遅刻とは決まっていない。筆者は菊池風磨と議論を重ねた、応生の七不思議である"松尾蒸発事件"をとっさに思い起こし、照之がそれに巻き込まれた可能性について懸念していた。警察に捜索依頼をかけようと電話に手を伸ばすその寸前に、てるは姿を現した。

やばいだろ
なんでてるは普通に遅刻しているんだ?
通常では考えられない事態に、筆者は困惑していた。一般的に、認知的不協和と言われるあの状態に酷似している。また、ブレイキングダウン7ではてるの対戦相手、satoruのほうが失踪しているのに対し、当研究室ではてるの方が失踪していたことも認知的不協和に拍車をかけた。

おそるおそる遅れた理由を訊ねたが、たんなる寝坊だと伝えられた。それを聞き、筆者がどれほどの悲しみと怒りを噛み殺したことか、読者諸賢には想像できるだろうか。

あれほど尊敬していた照之の変わり果てた姿に、どうしていいかわからなくなった。あれだけ固く誓ったことを破るのはどれほどの衝撃だろう。

ナルトがサスケ奪還を諦める。



クルタ族が血を絶やされる


照之はそんな衝撃を残していった。




照之に必要なのはただの誓いではなく、朝の光なのであろう。