夏
私と山中主任はどんどん親密になっていきました。
主任は 子供のように素直に自分の感情を表に出す人で 私に好意を持ってくれている事は
痛いほどわかりました。
でも そこは大人で 既婚者であると言うことで自分から誘って来ることはせず、私から言い出す様に
上手に駆け引きをしている様でした。
ある日 いつもの様に家まで送ってもらった時
『 おつかれさまでした 今日もありがとうございます 』
と言いながら 私が車から降りようとした時
『 もう降りちゃうの? 』
『 え、なんかありましたっけ?』
『 いや 何もないけど もう少し話しがしたいなぁ 』
と 捨て猫の様な目で 私を見つめながら言うのです、
『 主任が平気なら お茶でも飲みに行きますか? それとも車の中で話しますか?』
『 ここで少しだけ話そうよ 』
と言うので 車内でしばらく 仕事の事や 恋愛についてなどを話しをしていたのですが…
何を思ったのか 急に車を走らせて 六本木方面へ
当時 話題になった オシャレなバー [deepblue] に連れて行ってくれました。
以前よく遊びに来ていた六本木でしたが 長いこと来ていない間にそこは知らない町になっていました。
防衛庁の先を左に折れたあたりのビルの地下にあり secret bar と名づけられたそのお店は
他の人の目を気にしない プライベートな席の配置になっていました。
帰国後の 私はどこに遊びに行くこともなく 仕事だけに集中していたのでこんな素敵な遊び場に来れた事が
妙に嬉しくて ちょっと興奮していました。
『 おしゃれなお店ですね? よく来るんですか? 』
『 ううん 雑誌でみて 一緒に行ってみたいなぁって思ってた 』
『 私と?』
はにかんだ笑顔で 『 うん 』
直接 告白された訳ではありませんが まっすぐ素直にぶつけてくる山中主任の好意
私が 《スタート》 ボタンさえ押せば始まる事はわかっていました。
既婚者である自分から 《スタート》 ボタンが押せずに 彼も もどかしかったのだと思います。
私は 相手の気持ちを探り合う様な駆け引き的なドキドキする感覚をもう少し味わいたくて
あえてその日は 《スタート》 ボタンには気がつかないふりをしました。
フレッシュな美味しいスプモー二を2杯飲んで 今度二人で カラオケに行くと言う約束だけして
その日は家に帰りました。