$言葉をつむぐ☆りゅういち



シーブリーズというカクテルを飲みながら
カオリは父との思い出を語り始めた
ボクは彼女の肩まで伸びた長いストレートの髪と
横顔を見つめていた

ニューヨーク国連そばの行きつけのバー
古い木製のカウンターからは
染み付いたアルコールの香りがしていた




子どものころの話なんだけど
富士山に父と二人で行った事があるの

車でわたしたちは出かけたの
五合目あたりだったと思う
焼きトウモロコシを売っている露店が
車の中から見えたの
今でもあのお店あるのかな

焼きトウモロコシを食べたくなったの
わたしは何度も父にねだった

車が止まって父は言葉もなく車をおりたの
父の大きな背中と露店が見えた

父は微笑みながら焼きトウモロコシを
差し出してくれた

わたしの両手には大きな大きなトウモロコシ
美味しそうな香りに我慢できなくなって
すぐにわたしは小さな口でかぶりついた

あの時食べた焼きトウモロコシの味
一生忘れないと思う



1年前 わたし日本に帰ったの
父にも母にも連絡せずに驚かしてやろうと思ってね

わたしが家について夜になった


おまえがそろそろ
日本に帰ってくるのではないか
そう思っていたよ


父はそう言って
冷蔵庫から取り出してグリルで焼いてくれたの

1本のトウモロコシを


わたし泣いちゃった