台風は夜にやってくる。小学生のときも中学生のときも高校生のときも大学生のときも社会人になっても。台風が朝やってきて僕たちの期待に応えることはない。台風は政府や企業に買収されている。汚い金が動いている。

台風は夜にやってくる。民衆の声はいつだって届かない。誰かが声を張り上げる。激しい雨風にかき消される、その声。力ない僕たちは大きな力には決してかなわない。僕たちはいつだって叫んできた。台風が朝やってきて僕たちの期待に応えることはない。台風は政府や企業に買収されている。汚い金が動いている。

台風は夜にやってくる。僕達は激怒した。必ず、かの 邪智暴虐 の嵐を除かなければならぬと決意した。僕達には気象がわからぬ。僕達は、企業の犬である。数字を追い、サラリーで暮して来た。けれども嵐にに対しては、人一倍に敏感であった。台風が朝やってきて僕たちの期待に応えることはない。台風は政府や企業に買収されている。汚い金が動いている。

台風は夜にやってくる。オウ、キョウダイ!!イイニュースと、ワルイニュースがあるンダ。オッケーオッケー。まずはイイニュースからだ。タイフーーンがカミングスーーンだ!とんでもなくコイツハヤベエヤツなんだ。オマエなんかアフリカまで吹っ飛んじまうぜ。で、ワルいニュースは、ヨルにはソイツはカエッチマウコトダ!!タイフーーーンのやろうにはヤンキースの4番は絶対にウタセランナイゼ。俺たちの期待に応えらんないからな。政府の犬に買収されてやがるんだ!糞見てえな、金をやつのケツにぶち込んで、マッザーファッカーだ!

台風は夜にやってくる。ちょーーーやばいんだけどー。まじまじまじ。たいふうがくるんだって。風とかちょーーやばくて、ワンピめくれちゃってー親父がちょーーきもいめでみてきてーーがんなえきもにレミなちゃってー。あ、レミって大学で呼ばれてるあだ名ねー。わたしそんときカフェーいてーー。あ、そのカフェはーー読モがよくいく渋谷のオシャレなカフェでー、たぶん今度グータンデビューするらしいよーーでもグータン紹介されたらーーもう、うちらいきづらくなっちゃうじゃない。まじ、レミがいくとこいくとこグータンに紹介されるからマジ迷惑なんだけどーーー。で、台風なんだけど夜にどっかきえちゃうんだってーー。蝶うざいよねーあいつーー。朝来てくれたら学校がやすみになんのになーー。ありえないんですけどーー。あ、だからーーレミのかわりに出席よろしくでーーーーす。レミちゃんは夜はいそがしいからねーー。ぜったい台風はウリやってるよねーー。まじありえなーーい。
夏である。夏は人をおかしくする。そして、そのおかしさは「夏だからね」でうまいこと片付けられる。「だって夏なんだもん」「夏だからいいじゃん」そんな知性のかけらもない、刹那主義にも似た生き方が許されるのもひとえに夏の暑さが人をおかしくするからだろう。

僕は八月で三回記憶をなくしている。二次会から記憶がなく大体どっかで倒れている。倒れていても平気なのは夏だからであり、ゆえにどこかで甘えが生じ、平気で倒れるのだろう。事件は平日の木曜日に起きた。いや、事件だと僕が認識したのは、正確には金曜日の朝だった。「起きたら檻の中でした」。「起きたら知らない女がいた」・「起きたら知らない場所にいた」そんなのより、よっぽどインパクトがあるなんともいいタイトルである。


「おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございます」

「なんともうるさい!シット!!苦情をいいにいってくるわ!!」まどろむ意識の中でもう一人の僕はプンプンだった。あちこちで軍隊のような「おはようございます」が聞こえて来る。まだまだ僕は寝ていたいのに、なんて騒がしいんだ。「我が眠りを妨げるものは何人たりとも許さん」と流川ばりの寝起きの悪さと獰猛さを携えて、僕はいきり立った。立てない。ちっと考えた。一気に目が覚めた。やっと今いる異様な状況に気づいたのだ。なんだこの状況は?目を開けると真っ白い部屋だった。檻の様な白い鉄格子の扉。ここどこだよ。出られない。携帯も財布もバックもない。時間がわからない。外部との連絡が絶たれた。SAWか。SAWなのか。ノコギリはどこだ。俺を出せ。娘にはなにもしないでくれ。家族は関係ない。いや、俺に娘も嫁もいない。とにかく出せとドアをガチャガチャやっていると警察官がやってきた。「ジ、ジグゾーか?」と思ってしまう痛い人はさっさと映画を見るの止めて外に出て遊ぶべきである。僕はそんなに痛くない人間なので警察官がきた段階で、なんとなく、ここがどこだか把握した。とりあえずそれっぽく記憶をなくした青年のような口調で相手に質問をした。

「ここはどこだ?僕は一体昨日なにをしたんですか」

我ながら白身の演技である。相手の刑事のなまえが目暮でもおかしくない。そう、僕は麻布警察署の檻の中にいるのに全くを持って緊張感がなかった。なんとなく記憶はなくとも、犯罪に自分が手を染めるなんてことはないと認識していたからだ。余裕のあまり「何人やったんですか」とまで口走ったのが間違いだった。

「二人」警察官が静かに呟いた。

「え?まじで?」一瞬で余裕が消えた。たぶんちょっとドモったし、キョドった。
終わった。静かに何かが崩れ落ちる音が聞こえた。一人ならまだしも二人。え、マジか。たしかに、酔っただけなら救急車で病院だ。ここは警察。おう、シット!!会社どうなる。どう報告しよう。こんな時に会社のことしか考えないなんて、我ながらの社畜っぷりに今考えるとびっくりである。とりあえず顔面蒼白、時が止まったのは間違いない。さっきまでの藤原竜也ばりの迫真さが僕から消え失せていたのを確認すると、警察官は笑って真実を話し出した。僕はおふざけを見抜かれ、手痛いしっぺ返しを食らったのだ。僕は泥酔して、道に倒れてどうしよもなかったので保護されたらしい。なんで病院じゃなく警察署なんだろう。その疑問はやはり消えなかったが、口には出さなかった。その後荷物を渡され約5分で出所した。申し訳なさでいっぱいだったので、署内で会う方、会う方に頭を深々と下げた。麻布警察署をでてもう一度頭を下げようと思ったが、それをやってしまうと傍から見た時に明らかにその道の人になってしまうので、言葉だけで感謝を表現した。

帰宅するため、麻布警察署の前でタクシーを捕まえた。タクシーの運ちゃんが開口一番「あんちゃん、出所か?」って聞いてきた時は殺意を覚えたが、こっちは気持ち悪さとのガチンコファイトをこれから家まで繰り広げなければならない。おっちゃんなんぞにかまっている暇はないのだ。タクシーが走り出すとともにゴングが鳴った。「ファイ!!」予想に反して今回の敵は弱い。右折左折となんとも卑怯な技を使ってくる「Mr気持ち悪さ」には若干負けそうになるが、ぐっすり眠った分KOはされそうにない。いける。そう思った僕はまだまだ若かった。「俺は酒も女も15から」「前立腺がんでな、女はやめたんだ」はい、きた。タクシーのおっちゃんの参戦。車内は敵だらけだぜベイベー!!気持ち悪さと右折左折とおちゃんの前立腺癌の話で僕は呆気なくもノックアウトされた。一発目のKO。路肩に止め、ドアを開け吐く。おっちゃんは懲りずにまだ自分の酒の強さの話をしている。ハードラックとダンスっちまったぜ。とにかく今はブレイクタイムだ。次は負けない。タクシーのメーターが上がってたら、奴の思う壷だ。僕はドアを閉め再びゴングを鳴らすのだが、同じ轍を踏む程バカではない。僕はすぐさま寝たふりをする。これでリングからおっちゃんを締め出す事ができたとおもった。

「今日会社か?」

「、、、、、、、」

「今日会社か?」

「、、、、、、はい」


「何時からだ?」


「、、、、、」

「何時からだ?」


「10時です」

「なにやってんだ」

「サラリーマンです」



はいきた!一問一答地獄!!勝手にしゃべってくれるならまだしもなんで全部答えさせる。高校生の男女のメールか。とにかく僕を休ませる気などさらさらない。このラウンドで勝負を決める気だ。パンチは絶えず飛んでくる。二発目KO。路肩に止め、ドアを開ける。二発目のKOでは昨日緑茶を飲んだということ教えてくれるように、口から大量に緑色の液体が出た。緑色の液体が口から出ることにびっくりしていると、すかさずおっちゃんが言う。

「ピッコロみてえだな」

おっちゃんのボケは見事に僕のツボにはまり、緑色の液体は鼻に逆流し、「グゲゲ」となった。
その姿があまりにも気持ち悪かったのか、おっちゃんがちょっとそれもをみて引いていた。
引いたおっちゃんはそれ以降黙り、しっかりと遠回りをして着いた時には深夜料金とおんなじぐらいの料金を請求してきた。いつ車内で吐くかもわからない爆弾を抱えながらも、遠回りと言うなんともデンジャラスな道を選んだおっちゃんの勇気とがめつさに、一種の尊敬を覚えた。家に着いた僕はもう、着替えて出社するだけである。十分会社に間に合う時間だ。今日の朝の悪夢は何事もなかったように、いつもの毎日が始まるのだ。問題ない。なにも問題はないのだ。今日は家で起きた。ただの二日酔いである。会社に行き、いつものように今日が終わる。俺はなにもしていないのだ。そう自分に言い聞かせ、家を出た。太陽が眩しく、風が心地よい。今日の始まりだ。



ある後輩が社内で何気なく言った。
「麻布警察署近くで、何十人もの警官にパトカーに詰められるジャッキーを昨日の夜みました」

世間は狭い。誰がいつどこで見ているかわからないものである。このあとどうなったかは言うまでもない。


酒は飲んでも飲まれるな。辞書があった時代なら真っ先に僕はそこに線を引いている。
反省はしている。
「全ての事象には必ず理由がある」世の中には魔法はないし、奇跡もない。すべて科学的な根拠がある。しかし今朝ボクは「ありえない」ことを目撃した。ボクの目の前で「水が消えた」玄関を掃除しようと、バケツ一杯の水を玄関にぶちまけたら水がきえたのである。「ありえない」そして「実に面白い」ガリレオの福山のごとくボクはこめかみに人差し指をあて、つぶやく。「実験と検証が必要だ」実験は再び行われた。その時、下の階から悲鳴。そうこれはすべてマンションの302で行われた実験なのである。ボクは青ざめた。大家がこの後くるが、事件はあまりにも悲惨なので、ここで筆を置く。