作品はフィクションです。

実在の人物、史実、団体には一切関係ありません。


ぼくは、ロフトの上で目を覚ました。

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時計を見なくても、今の時間はわかる。

もう少しすれば、朝日が昇り、街も起き始める。

ロフトを降り、4畳の、小さなスペースに降りる。

スペースに置かれているのは、2人用のソファにも、シングルサイズのベッドにもなるIKEAの家具、センターテーブル。

ソファの向かい側には、12インチのiPad Pro。

電源を入れ、ニュースを流す。

今日も、ニュースは暗い出来事ばかりを流し続ける。

ぼくは、腕立て伏せ、腹筋運動、背筋運動、スクワットをし、鉄アレイを握ったままシャドウボクシングを気がすむまでやり、たっぷりと汗を流すと、iPad Proの電源を切り、ロフトの下部についている扉を横に開けた。

ロフトの下部には、3畳のユニットバス。

タオルや着替えが収まる棚、試着室よりも少しばかり狭いシャワーを浴びるためのケースと、便器。

水蒸気は、少し大きめのファンがベランダへと流してくれる。

パジャマを袋に入れる。

袋には、3日分の着替えが入っていた。

汗を流し、服を着替える。

カジュアルなダークグリーンのシャツに、ブラウンのTシャツ、カジュアルな濃紺のジーンズ、ブラウンのブーツ。

コンロが1つと小さな調理スペースと小さなシンクが並んだキッチンに向かい、小さな冷蔵庫を開け、簡単な朝食を作る。

昨夜残ったローストビーフ、スクランブルエッグ、クロワッサン、濃いコーヒー。

再びiPad Proの電源を入れ、適当なニュースを流す。

学園からの招待状が届いたのは、昨日の朝のこと。

理由は伝えられていないが、断る理由もない。

今は春休み。

それが明ければ、日本の義務教育の最終年度が始まる。

そして、それが終われば学園付属の高等学校に今日ことになり、それが終われば大学に、それが終われば大学院、そして、それが終われば、社会に出て、なんらかの職につき、何回か、自分の人生のありようとかに疑問を持ったり、やりたいことが思いついたりして、職を変え、環境を変え、そして、長い生涯を終えることになるのだろう。

シンクで食器を洗い、二杯目のコーヒーを入れる。

理由は伝えられていないが、何と無く検討はつく。

人生は不平等だし、世の中にあるあらゆる場は平等ではない。

ぼくは、そのことを知っていたから、出来る限り優秀でいようと、可能な限りのベストを尽くしてきた。

くだらない勉強で上位3位に食い込むのは当然のこと。

先生と雑談だってする。そうすることで、先生から気に入られようというのが、当初の理由だったけれど、先生と過ごす時間は、ぼくに色々な機会を与えてくれた。3日後に掲示板に貼られる予定の、行事の情報。市内で行われる展覧会やエキシビジョンなどに参加すれば、自然と顔も広まった。

人と言葉を交わす機会があれば、それを逃す理由もなかった。

人脈は大事だ。

知り合いや友人や家族や親友や恋人は、色々な機会を、ぼくに提供してくれる。

ぼくは、機会を得られるように勤めてきた。

幸運とは何か。

それは、自分の実力を試す機会に遭遇すること、そして、そんな機会に恵まれること、そして、そんな機会を通して自分の実力を認めてもらえること、そう信じて、ぼくはこれまでの人生を生きてきた。

街が白み始めてきた。

妹の凪-ヴィクトリアは、隣の部屋でもうすぐ目を覚ますだろう。

凪の朝食は冷蔵庫に入っている。

ぼくは、衣類袋を持って部屋を出て、地下のランドリールームへ向かった。

階段を使うのも悪くはないが、ここは学生寮の最上階である地上13階。

少しばかり面倒だったので、エレベーターを使った。

学園は、電力節約のために、学生寮のエレベーターのドアを7階から上の奇数階だけに設置した。

ランドリールームには、144の洗濯機が収まっているが、動いているのは三分の一程度。

それだけの洗濯機が必要になるほどの人数が、この学生寮には住んでいる。

ぼくは、いつも使っている洗濯機に衣類を流し込み、洗剤を入れ、蓋を閉め、スイッチを押し、軽くなった衣類服をポケットに丸め込むと、再びエレベーターに乗り込んだ。

学園を経営するある企業グループは、ぼくが生まれるよりも前に、関東地方の土地を買い、そこに学園と、そこから数キロ離れた地点に、グループが持つ企業の支店を4棟建てた。

当時の部外者が知るはずもなかったが、それらの建物は、建物同士を直線で結ぶことで十字を引くことができる位置に建てられ、そして、線と線が交わる中心部には、学園があった。

それらの建物は、別の形で線を引けば、台形を描くこともできた。

台形の面積は12平方キロメートル。

そして、グループはビジネスを展開し、資金がたまるごとに、グループの持つ、様々な業種の支店を、台形の上に建てていった。

支店は増え、資金が増え、学生寮が増え、校舎が増え、生徒や教師、卒業生も増えていった。

現在。

学園は、日本どころか、世界からも注目を集める場となっていた。

そして、世間が気づく頃には、同グループが経営する学園は、世界26カ国にあった。

注目が集まるに連れ、世界中から様々な人も集まってきた。

ぼくのような外国人もまた、そんな人間の1人だ。

ぼくが住んでいるのは人気の、Life editedという、格安のワンルームマンションだった。

月の家賃は水道電気光熱費込みで12000円。

4畳の小さなフローリング。

代わりに、天井は少しばかり高い設計になっており、3畳のロフトと、4畳のベランダがある。

総面積は12畳。

幼い頃からこの部屋で住んでいるけれど、特に不便はない。

最近少しばかり狭くなってきたと思うくらいだ。

バスルームで髪を整える。

ぼくのルーツの1つでもある日本人から見れば、ぼくはただのヨーロピアンでしかないのだろう。

少しばかり国際感覚のある人なら、リトアニアの血が濃く出ているタイプの顔立ちだとわかるかもしれない。

だが、三代まで遡れば、ぼくには13種類の民族の血が流れている。

だから、正直言って、ぼくには民族の区別なんてものはそれほど重要なものでもない。

重要なのは、民族でも人種でもない。

それがどんな人間なのかだ。