前日の余韻も醒めやらぬ5月6日(土)。再び同じ時刻にバスに乗り、JR高槻駅前の1624TENJINへと足を運んだ。この日は小雨が降ったり止んだりのスッキリしない空模様で、昨日入口に出来ていた行列が、ビルの玄関内に出来ていた。
受付でドリンク代を支払うと、入場チケットと同時に、この日のリクエスト曲の一覧表を渡された。美登里さんの候補曲は30曲、対して池田聡さんの候補曲は何と100曲。池田さんはこういったリクエスト形式のライブをよく行っているそうで、この中のどの曲が出て来ても歌えるというから、経験の豊富さを感じさせる。
対して美登里さんはこういう形式のライブは初めての経験だそうで、まるで中間試験や期末試験前の高校生のような気持ちでこの日を迎えたらしい。池田さんが言うには随分と念入りに候補曲を確認していたようだが、果たしてこのびっくり箱のようなライブ、一体何が飛び出すのやら…
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「先攻」は池田さんから。リクエストの第1曲目は『Prayer』。私は池田さんのライブを観に行ったことがないのでわからないが、普通のライブでオープニングに歌われることはどうやらまずないらしい。「1曲目に『Prayer』を選びますか…?」と少々当惑気味だったが、それでも観客は大盛り上がり。
「後攻」の美登里さんに飛んだリクエストは『時間旅行』。彼女のデビューシングルである。彼女によるとリリース当時の1988年は女性アイドル不作の年で、若手の女性シンガー・ソングライターにもアイドル的要素を求められた時代だったそうだ。バラードの名手というパブリックイメージが定着している彼女にしては珍しいアップテンポのナンバーで、その独特の手拍子でこれまた異様な盛り上がりを見せた。
リクエストがどんどん飛んでくる。『Long Distance Love』、森高千里のカヴァー曲『渡良瀬橋』等々。池田さんの『エスカレーター』は、毎朝同じ駅のエスカレーターで出会う、名も知らぬ女性に恋した男の歌だが、「まだストーカーという単語がなかった時代に書いた歌なんですけど、これって変態ですよね」と自嘲気味に語る。確かに歌詞だけで主人公の男の行動を追ってみるとそう見えないこともないが、それほどまでに恋い焦がれる気持ちというのも解らなくはない。
池田さんに『月の舟』のリクエストが飛んだ時、二人が一瞬困った顔をしたが、その理由をその時は誰も知らなかった。「また追々話しますが…」と池田さんが言葉を濁していたが…
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そうしている間に時間もどんどん過ぎてしまい、いよいよあと1曲ずつのリクエスト受け付けとなった。ここまで私はずっと沈黙を守ってきたが、ここで満を持して手を挙げると、美登里さんが私を選んでくれた。
「実はこの1年、人生で最も辛い1年だったんですが、美登里さんが創ってくれたこの歌のおかげで、何とかこの辛い1年を乗り越えることが出来ました」と、そのリクエストの理由を伝えた。
私のリクエスト曲は『抱きしめて』。比較的新しいアルバム『Bouquet garni』に収められた、シングルカットもされていなければチャートインもしていない、ファンのみぞ知る類の曲だが、私の中では彼女のベスト3に入る名曲である。
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実は以前、ファンクラブミーティングの席で、この歌を作った時の話を直接彼女に聞いたことがある。このアルバムの中では一番最後に出来た曲で、歌詞にここまで強いメッセージを込めるのもどうかと当初は悩んだものの、ストレスに満ちた今の社会で必死に生きている人達への応援歌になればと、敢えてこの歌詞で完成させたと語ってくれた。
親父の事故、長い闘病生活、そして死。それを境に一変してしまった我々家族の生活。パワハラ上司に苦しめられる日々。残された母親を支えていかなければならないプレッシャー。それらのストレスが引き金となった胃潰瘍やバセドウ病…
悪夢のような1年だったと言わざるを得なかったが、それでも心が壊れることなく何とか乗り越えられたのも、この歌がいつも傍にあったから―そのことを彼女に伝えたくて、この1曲を選んでリクエストさせてもらった。
『抱きしめて』を歌い切った彼女は、大きく溜息を一つついて、「…出し切りました!」と吐き出した。きっと美登里さんは私のこの想いに渾身の力で応えて下さったのだと思う。
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アンコールはお互いの曲を1曲ずつクロスカヴァーするという、これまた面白い企画になった。池田さんが選んだ美登里さんのナンバーは『愛すること』。ヘッドを高く構えてかき鳴らすアコースティックギターが力強く響き、そして池田さんの甘い声も心なしかパワーを帯びる。私もアコギを弾き語りするのだが、美登里さんの歌は男の私が歌ってもサマにならないと思っていた。でもこの池田さんの『愛すること』は実に力強く、芯の強さを感じさせる。なるほどこんな風に弾き語りすればカッコイイのかと、しばし見入ってしまった。
そして困った顔をしながら美登里さんが歌ったのは『月の舟』。何と先ほどリクエストで歌われてしまった歌だった。そうか、二人が困惑していたのはこのことだったのか。それでも美登里さんの独自の解釈で見事に歌い切ったが、1ヶ所だけ歌詞を間違えたのを美登里さんが本気で悔しがっていた。また次にこんな機会があれば是非リベンジを見たい。
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終演後は例によってCD購入者にサイン&握手会が行われた。美登里さんのCDは全部持っているが、ダブりを覚悟の上でCDを購入し、握手会に臨むことにした。
「ちょっとご無沙汰してしまいましたが、今日は本当にお疲れさまでした。最後にリクエスト聞いて下さって本当にありがとうございました。あの歌のおかげで、何とか心が壊れることもなく乗り越えられましたんで…」
「いえいえ!そのエピソード聞かせてもらえて本当に良かったです。元気そうで良かった。ありがとうございました!」
この美登里さんの一言で、この1年あまりの苦労が少し報われたような気がした。
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『抱きしめて』をリクエストした理由はもう一つある。彼女の歌はこんなにも強く優しく、聴く者を癒し、勇気づけてくれる。そのことをこの会場に集まった池田聡さんのファンの皆さんにも知って戴きたかったという思いがあった。
そして逆に、「オシャレな都会派シンガー」といった一面的なイメージでしか見ていなかった池田聡というシンガー・ソングライターの人柄に、こちらも触れることが出来た。今から全曲を聴こうとしても初期アルバムは廃盤になっている可能性が高いが、例えばベストアルバムからでも、少しでも多く彼の歌を、少しずつでもいいから聴いてみようと思う。
池田聡&辛島美登里2Daysジョイントライブ~リクエスト編~
2017/05/06(Sat.)16:00-18:20
高槻Music Square 1624TENJIN
【Set List】
01.Prayer
02.時間旅行
03.Long Distance Love
04.渡良瀬橋
05.エスカレーター
06.あなたの愛になりたい
07.夏色物語
08.キミの街
09.シアワセノイロ~家族になりたい~
10.悪女
11.気をつけて
12.月の舟
13.抱きしめて
14.雨のフォーチュン
(Encore)
15.愛すること(池田聡)
16.月の舟(辛島美登里)
池田聡:Vocal, Acoustic guitar
辛島美登里:Vocal, Piano