しばらく連絡が取れなくなった彼女から
久しぶりにメールが来た
『また入院しています。』
どうも普通の病院では無いらしい。
緩和ケアの専門の病棟がある病院のようだ。
緩和ケアとは、悪性腫瘍で治療をしない方が入院対象で、
入院中は苦痛緩和につながる合併症の治療は行うけれど悪性疾患の治療自体は行なわない。
そのような趣旨の病棟だそう。
そして、できるだけ在宅看護に切り替えるため、平均在院日数は14日間と短いのが特徴。
故、まだ高齢でもなく終末期の患者でも無い彼女は、平均在院日数を超えると退院を促され
また別の緩和ケアの病院を探して入院というのを繰り返す羽目になったのだった。
ステージ4にもなって、全身転移している体で何度も入退院を繰り返すのはあまりに酷だと思った。
話は逸れるが、4月に入って、長年親しくしてきた老婦人がご自宅で大往生された。
最後は自宅で死にたいと頑なに入院を固辞していたのも報われたんだろうか。
ボクは連絡を受けた時、やっと楽になれたんだ、と思った。
少し悲しかったけれど。。。。
何軒か転院して、ようやく車椅子で外に出られる緩和ケアの病棟に巡り合った。
彼女の車椅子を押して
ボクは病棟のデッキへ出た。
季節は次々と入れ替わってゆくのに
ボクらは止まったままだ。
咲き誇った桜も花びらを散らし始めた。
大きな木蓮の花びらも
彼女の膝掛けの上に散り急いできた。
止まったままの僕たちと
盛んに動き続ける季節たちが
交わる瞬間だった。
一体、これから僕らはどこへ向かうのだろうか。
木蓮の花びらを身を伸ばしてそっと地面に置くと
自ら車椅子のブレーキを外した。
ボクは背を向けていた病棟に
彼女の車椅子を押していった。