JCTで東京方面へ。
長いトンネルを過ぎるとまた道は北上する。
次のJCTで目的地付近へと入ってゆく。
ICを出ると、広いスペースの隅へ車をとめ、
ルーフを開ける。
BMW.Z3
古い車だ
今日の彼女は髪を結えている。
聞けば風対策だそうだ。
段々、乗り方、わかってきたじゃない?
目的の高原までもう少し。
ゆっくり走り出すと、ふわっとどこからか花の香りが
Z3を優しく包み込んでくれる。
今日はジェントルに車を走らせる。
乗り手にはたまらないカーブの連続。
サイドシートの君が酔わなければ良いのだが。
最後の大きなヘアピンを抜けると丘に駆け上がった。
消えかかった白線が引かれたパーキングに車をとめ、
目の前の柵まで駆け寄った。
すると、彼女は髪を解いた。
真っ白なワンピース。
流れる長い髪
素敵だ。
『ねぇ、気持ちいね』
『富士山の裏側が見えるね』
車酔いしてない、良かった。
『柵低いから落っこちんなよ』
そんなゆったりとした時間が
そこには流れていた。
悲しいかな、病魔は確実に
彼女の中を蝕んでいたのだ。
まだ気づく前の
ささやかな幸せな時間だった。