ボクは、ゆっくりと腰掛けたお2人に向かって
聴かれるであろう、そして、それに対しての一番の模範解答を口にしました。
“全部、売れなかった品々の残骸です。“
普通、ケースワーカーさんは、受給者の部屋を観察する基準として
“換金できる贅沢品を所持していないか?“
あるいは、“換金できそうなら、そのように指導し、保護費を減額する方向に説得する“
というものです。
毎年、改訂される2冊のケースワーカー必携の書籍があります。
福祉課のデスクの後ろには、並べれるだけ並べた各年度のそれがズラリ。
一冊は最新版だと、『生活保護手帳 2021年度版』967ページ、¥2750。
もう一冊は、『生活保護手帳 別冊問答集 2021年度版』596ページ、¥2420
どちらかというと、1冊目は国からのトップダウンの指示書。
もう一冊は、実際の現場の過去事例を具体的に表した、1冊目よりはるかに付箋が多く貼られている
いわば、実践向けの想定集と言ったところでしょうか。
福祉事務所での面会時には、ケースワーカーさんは主に2冊目をドカン!とテーブルに持って来られます。
まあまあの威圧感、威厳、などなど。
その中に、冒頭にボクが先手を切って対応したように、いわば、現場での一問一答が事細かに想定され、
そこから主だった指示が出されてくるのです。
なので、着席早々、まるで鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情でお2人、顔を見合わせておられました。
まあ、無理もありません。タネを明かせば、ショーケースのど真ん中のどでかく真っ赤なエンッオ・フェラーリ。
某、通販で、毎週購入を約2年。トータル、13万かけて手作りした10分の1の模型だからです。
未開封の箱のまま、まんだらけ、とか、その手のオタク御用達のショップでも100箱近くで約6万そこそこ。
一度組み立ててしまうと、その手のショップは、組み付け精度や、出来の悪さを根掘り葉掘り。
結局いちゃもんつけて、5、6千円でも買い取ってくれない現状です。
10kg近くて、運びにくく、やっとの思いで売りに行っても、無駄なだけ。
そういうのを知っているので、鼻っから売るつもりもなかったし、メルカリだのジモティだのにも出しもしませんでした。
でも、初めて見た人は、いかにも高級な模型だと感じるのは間違いありません。そして、売れそうな。。。。。
なので、訊かれる前に軽くジャブを1発。
高そうなグラスも、よく見れば全部文字の入った販売促進のノベルティのものばかり。
上の段のメガネも全部使い古し。
高そうな香水の瓶は全部空っぽ。
まあ、弟は、器用に木箱を彫り込んだし、父はこれまた実際に立体的に彫刻を完成させ、
で、一番指先が、実は、もう既に安定剤を飲み始めていた時期で、微かな震えが止まらない状態なボク。
小さなネジを、まず、ピンセットでつまめない。説明書の位置に数時間かかっても部品一つはめ込めない。
そんな状態で3年近くかかって完成させた、出来の悪い模型でした。それが、ボクの中の創作のDNA。
男3人で、一番不器用でした。
まあ、そんな出だしで始まった初回の支給認定調査訪問。
がらんとした部屋を一瞥して、何も言われる事なく帰っていかれました。
だって、その時まだ、エアコンはないし、テレビもそれに類する機械はおろか、音楽を聴けるような装置もない。
そう、コンポを持っていると、たちまち指導が入ります。“リサイクルショップ、紹介しましょうか?“などと。
ただ、薄いiPadだけは、何気にデスクの上のクリアケースの束の中に差し込んでありましたけど。
でも、問答集によれば、昨今、求職活動のためや役所のHP閲覧など、IT機器は一台までは所持が許されるように
数年前から改訂されています。
なので別に隠さなくても良かったんですけど、タブレットとはいえ、Apple製品ですから。。。。
さて、ここからが本題です。
もう一度、ショーケースの写真に戻って見てみてください。
木製の薄い板で出来た恐竜の模型、そう、右側の真ん中の段にあるやつです。
その足元、よく見て下さい。
というか、この写真を以前アップしたブログをご覧になった方から、
“。。。。。というより、足元の象?がどうも気になりますね。。。“とのご指摘を
実は受けておりまして、
この“小さな象“のエピソードを書くために
この“製作者“そう、勘の良い方はお気づきでしょうが、常滑からでは取材が出来ず、
こちらに来て、やっと“本人“から、その一部始終を聞き出すことができたのです。
しかも、ひと月に訪問していいのは一度だけ。という約束が福祉課との面談で決められていたので
7月に1回。8月も1回。そして9月。ようやくその話題を持ち出すことができ、本人も重い口を開いてくれたのです。
“父親“です。
加齢黄斑症で目が見にくくなり、彫刻刀を“置いて“から、
我が家ではいわば“タブー“になってしまった彫刻の話。
大学病院で眼球のど真ん中に注射を打つこと既に40回以上。
それが、いつしか、両目になり、
1回、¥15000する治療を続けてきた父。
いくら、高額医療費の負担上限額があって、超えた分は戻ってくるとはいえ、
一度は現金で立て替えなければならず、
更に、注射後、3日空けて地元の眼科で毎回確認診療を受けねばならず、
もう、夜は運転ができないレベルまで見えなくなっています。
そんな中、9月に入って、いつものように地元の眼科で、診療中、
父の後ろに立っていた母が身につけていた、あの、ブローチに先生が気づき、
“奥さん、素敵なブローチですね。どちらでお求めに?“と聞かれたのです。
“先生、これ、主人が彫ってくれたんですよ。もう、20年になりますけど“
そんな会話が始まったのです。すると先生が、父に一言。
“〇〇さん、これは良いことを伺いました。視力の回復にも、現状維持にも大変良いことです。
どうぞ、また、再開されてはいかがでしょうか?無理にとは言いませんが、それにしても凄い。“
と、予想だにしなかった会話になったのです。
これには父も母と顔を合わせて驚いたそうです。
そんなやりとりの熱が冷めないある日、ちょうどボクが実家を訪れた、というわけです。
引越して来て、3回目の訪問。
なかなか聞き出せなかったはずが、なんと、両親の方から、話題にしだしたのです。
先生にね。。。。
それから、ボクは父をけしかけて書斎へ押しかけ、使っていた道具や小物、きちんと整理された様々な
愛用品を見せてもらいました。
そして、何気なくリビングの壁のお手製の棚に並べられた“兄弟たち“
興奮冷めやらぬボクをよそにベランダで何やらゴソゴソ。
両手で持って来たのは。。。。。
次は少し写真多めで書いてみます。