かの、年下の女性上司が栄転して間もなく。

営業店的には隣の営業店で、有職者による業務上横領が発生した。それを受けて、精神的ダメージを負ったコールセンターのスタッフが大量退職をしてしまった。

ただでさえ人手不足な部署。

本部は迅速に動いた。

近隣の営業店から、優秀な係長を2名。更に本部の部長が各営業店からここぞとばかりに選抜したメンバーに、何故だかボクも入る事になった。

噂では、本部長からの名指し指名だったそうだ。

いわば出向となる。

現在の家賃を払いながらも、会社が用意してくれたアパートに住みながら3ヶ月、通う事に。

赴任日にアパートの契約が間に合わず、ボクは最寄りの大きな駅の側のビジネスホテルに三日間滞在を余儀なくされた。毎日そのホテルからタクシー通勤。全部会社持ちだった。

それからあてがわれた寮に入ったのだが、何せ、生活用品が足りない。

自宅と寮は約7km。

折りたたみ式の20インチの自転車で、登山用のバックパックに入るだけの必要品を詰め込んで、仕事終わりや休みの日に必死で往復した。


唯一残念だったのは、当時、映画『レオン』に感化され、必死で手に入れたアグラオネマという貴重な観葉植物を2鉢、枯らしてしまった事だ。

以来、二度と手に入らなかった。


仕事では、各支店から精鋭達が集まっていた。

2人の係長。その1人がなんと、例のあの、年下の女性上司だった。、

『◯◯君も選ばれたんだね。てか、私が本部長に推したからね、まあ、当然か』

ボクは唖然としたまま言葉を失った。


それからの3ヶ月。記憶が飛ぶほど働いた。

出向の後には昇進が待っている。

淡い期待を胸に秘めながらボクは3ヶ月を全うし、再び元の営業店に舞い戻った。


しかし、待ち受けていたのは。。。


名札を置ける固定席は無く、休みのスタッフの空いた席を転々とする毎日。

そしてある日、営業店の店長に名指しで呼ばれ、こう、宣告された。

『社内的にこれからは女性を登用する事になった。だから、キャリアを積んできたのは褒めるが、もう、キミには昇進は無い。まあ、せいぜい頑張ってくれたまえ。』


最初、入社した時には、まず4年頑張れ。そうすれば主任になれる。給料も上がるから今はとにかく伏して頑張れ。


ボクはその言葉をひたむきに信じて、30代後半に正社員に引き上げてくれた係長に必死に食らいついて来た。


なのに。


いきなりの方針転換。モロ被り。


本社は、これからは女性が輝く時代。我々が先陣を切って女性登用を推し進めます。


などとマスコミ向けにほざき始めた。


と、同時に、今までの退職金制度の撤廃。

確定拠出年金制度に移行すると発表。


これには勤続20年選手の係長、主任クラスから猛反発。定年前に退職して、退職金で再び独立を計画していた大半の幹部クラスが一斉に退職へと傾いた。結果、全国の社員、約1割が退職に追い込まれた。

ボクも、もはや目標を失った抜け殻状態だったので、この流れで僅かな在籍で貰える僅かな退職金をもらう決意を固めた。

このころからだ。鬱が酷くなりはじめたのは。


こうして、この就職氷河期に奇跡的に正社員になれたチャンスもあっさりと重ねた手のひらからまるで持ちきれない砂のようにあっという間に溢れ落ちてしまった。以後、二度とロクな仕事にはありつけなかった。


振り返ると、あの3ヶ月は一体何だったんだろう。そんな問いが頭の中でリフレインする。


今となっては、たまにその運送屋が荷物を持ってくると、昔の話でマウントを取る自分がいる。


はっきり言って情け無い。


しかしボクは頑張ったんだ。


あの頃、花火大会で最後に上がる連発のスターマインのように、人生、燃やし尽くしてしまったのさ。


無慈悲な仕打ち。


それに狂わされた人生。




返せよ。


返せるもんなら。。。。



正に人生のピークでした。