誤解している人が少なくないですが、
現在のコストプッシュ型インフレは
「需要不足」を埋めません。
むしろ、拡大します。


 需要とは、名目面のGDP(支出面)です。
支出面のGDPは、
◇支出面のGDP=民間最終消費支出
+政府最終消費支出+総固定資本形成(投資)
+在庫変動+輸出-輸入
 となります。


 国内需要が増加したわけではない
にもかかわらず、輸入物価が上昇すると、
控除項目である輸入の金額が膨らみます。


 物価上昇により民間最終消費支出分で
見かけの需要が増えるのですが、
輸入金額の拡大により
オフセットされてしまいます。


 その上、消費税増税と同じく、
「所得が増えるわけではない
にもかかわらず、支出金額が増える」
ため、可処分所得が減った我々は
「次の支出(=需要)」を
減らすことになります。


 先日の日本銀行の西田昌司参議院に対する答弁、
『現在の状況について
お答え申し上げます。
ウクライナ情勢を受けました供給不安に
起因する資源・穀物価格の上昇は、
短期的にはエネルギー・食料品を中心に、
物価の押し上げ要因となる一方、
家計の実質所得の減少や、
企業収益の悪化を通じまして、
国内需要の下押し要因となります。


このことは感染症からの回復が
なお道半ばにある我が国経済に
悪影響を与え、長い目で見れば、
基調的な物価上昇率の
低下要因ともなり得ます。』


 は、完全に正しい。


コストプッシュ型インフレは
「国内需要の下押し要因」すなわち、
デフレ化要因です。


 日本は
「需要不足(=所得不足)+物価上昇」
という、経済環境としては
「最悪」に近い状況を
迎えることになったのです。


 特に、心配しているのは、
実はエネルギー以上に「食料」です。


『「日本の農業安保は危機的状況」 
東京大学大学院 農学生命科学研究科 
教授 鈴木宣弘氏
――日本の農業が危機的状況にあると…。
 鈴木 日本の農業は、
あと10年もすれば消滅しかねない。
農家関係者が高齢化し
個人経営が難しくなっている中で、
集落の仲間と協力し合う
「集落営農」も広まっているが、
そのような組織の優良事例でさえ
平均年齢が70歳で後継者も
ほぼいない状況にある。


また、外注している
機械オペレーターも
年間200万円程度の
低い報酬であることから、
仕事を引き受けてくれる人さえ
いなくなっている。


そこに輪をかけて、
ここ数年のコロナ禍による
外食需要などの低下で
米の在庫量は増加し、
米取引価格は1俵(60kg)7000円まで
暴落している。


20年前の米価2万円から半分以下の
レベルにまで下落している
にもかかわらず、
政策として農家に差額補填を
行うような動きもない。


このコロナ禍において、
他国では政府が農家から食料を調達し、
困窮世帯に届けるような
人道支援を行っているのに、
日本では米の在庫増に対して
生産量を減らすように指示しているだけだ。


これでは生産者も困窮者も救えない。
その背景には、財務省が現行の
法律上で買い取り可能な備蓄米の量を、
このコロナ禍にもかかわらず、
一向に変えようとしないことにある。


コロナ禍で職を失い、
日々の食料に困っている国民が
いるのであれば、
国としては法律の解釈を柔軟にするなり
新たな法律を作るなりして、
国民を助けるために
財政政策を動かすべきなのに、
この有事においても
何も変えようとしないとは、
本当にあきれるばかりだ。(後略)』


 コメの価格が一俵7千円にまで暴落。
コメの生産者価格(ペイする価格)は
一俵1万5千円と言われています。
このままでは、
コメ農家はことごとく廃業でしょう。


 本来は、政府が財政支出により
市場価格と生産者価格の乖離を
埋めなければならない。

あるいは、余剰米について
政府が買い上げ、貧困層に配ってもいい。


 ところが、政府の政策は、
「生産量を減らせ」と指示するだけ。
 理由はもちろん(鈴木先生も書いていますが)
財務省の緊縮財政。


 穀物自給率28%の国が、
「緊縮財政」という間違った政策の下で、
国民を飢えに追い込もうとしている。



http://mtdata.jp/data_79.html#kokumotsu

 
ちなみに、日本はコメの自給率は
100%近い(アメリカ様から輸入している
ミニマムアクセス米があるので、
100%ではない)のですが、
これは供給増ではなく、需要減によるものです。


 小麦の自給率は15%。
 粗粒穀物(大麦、オート麦、
トウモロコシなど)の自給率は、1%。


 今後は、輸入穀物価格の上昇により、
コメの需要が高まるでしょう。
もっとも、肝心要のコメ農家が、
米価下落により次々に廃業していく。


 日本国民は、財務省によって
1946年以来の「食料危機」に
突入することになります。


 コメ農家を救わなければなりません。
そのためには、緊縮財政の転換が
どうしても必要なのです。








『三橋貴明の「新」経世済民新聞』
 2022年4月23日

 財務省によって飢える

 From 三橋貴明 @ブログ