日本衰退の現状からの起死回生のために



藤井先生のお話しです。




ご高齢の方ほど

財務省の財政破綻論や

プライマリーバランスの黒字化に拘り

国債発行が悪い事だと信じる傾向があります。



人口の多数を占める高齢者こそ
 
国家財政に対する

正しい知識をもっていただかないと

政治の正常化に繋がりません。




日本再生のためには
 『プライマリーバランス規律の凍結』が
 “絶対必要”である理由を
 分かり易く解説します。


 From 藤井聡
  @京都大学大学院教授



コチラのグラフ。


これは、世界中の各国・各地域の名目GDPの推移のグラフです。

ご覧の様に、90年代までの日本は世界各国と同じように「成長」していたのですが、90年代後半から全く成長出来なくなっています。

その結果、かつて我が国は、アメリカの経済規模の7割にも達する、輝かしい「世界第二の経済大国」だったのですが、今やもう中国の半分以下、アメリカの四分の一に過ぎない衰退国家となってしまいました。

その結果、格差と貧困は拡大し、国防力も外交力も技術力も文化力も軒並み衰弱してしまいました。しかも、今後もさらに我が国は衰退し続け、早晩我が国はアメリカのみならず、中国の属国的位置づけに堕落していくのではないかという漠然とした不安が世間を覆い始めています。結果、若者を中心とした国民は皆、将来に明るい展望を見いだせず、無気力感と絶望感に支配されつつあるのが、哀しき令和日本の姿です。

こうした絶望的な状況は、なぜもたらされたのか……その直接的な「経済学」上の原因が1997年の消費増税であることはよく知られた事実なのですが、「政治学」上の原因は、1997年に橋本龍太郎総理が法的に制定した「赤字国債削減」目標だったのです!

橋本内閣は、「六代改革」の一つとして財政改革を打ち上げ、いわゆる「財政構造改革法」を制定するのですが、その「改革」の目玉が2003年度までに「赤字国債の発行額をゼロにする」という財政規律の導入だったのです。

これは要するに(定義上の少々の違いはありますが)、現在の「プライマリーバランス規律」と基本的に同じものです。プライマリーバランス(PB)赤字額とは要するに国債発行額のことであり、PB黒字化目標とは「国債発行額ゼロ」目標に他ならないからです。

この規律を念頭においていた橋本内閣は(法律制定より数ヶ月早く)、「消費増税」を敢行するのですが、この「赤字国債削減」目標の存在故に、消費増税によって生じた様々な経済ショックに対して殆ど何も対策を行わなかったのです。

その結果、日本経済は、バブル崩壊以上の大打撃を受けたのです。

その惨状を見るに見かねた橋本総理の次の小渕総理は、その翌年の1998年、「国債発行額」削減目標を、法的に停止し、経済対策を始めるのですが、もはや後の祭り日本経済に対する消費増税インパクトは癒える事無く、今日に至るまで、四半世紀にわたって世界中で唯一、全く成長出来ない国になってしまったのです。

こう考えれば、日本経済に深刻なダメージを与えたのは、消費増税と「国債削減」規律だったと言うことができるでしょう。そして実態上は、その消費増税は「国債削減目標」を念頭において実施されたわけですから、日本をダメにした最大の犯人は、「国債削減目標」という財政規律だったと言うことができるでしょう。

そんな中、2002年に誕生した小泉政権は、一旦小渕内閣によって休止されていた「財政構造改革法」の理念を再び再起動させるのです。

小泉総理は「聖域無き歳出削減」なる構造改革のキーワードの下、徹底的な国債発行額の削減を政策目標に掲げ、文字通り、徹底的な政府支出の削減を始めてしまったのです。

小泉政権と言えば「構造改革」の政権として有名ですが、政府の論理としてその構造改革が一体何の目的で行われたのかというと、実は国債発行額の削減のためだったのです!

つまり、財政規律が小泉政権に構造改革を断行させたのです!

そしてついに、第三次小泉内閣がはじまった2005年、一旦「廃止」された「国債削減」目標という財政規律が、

「プライマリーバランス規律」(PB規律)

という新たな装いで「正式に復活」する事になります。

2011年までPB黒字化を達成する、つまり、2011年までに(政策に関する)国債発行額をゼロにするという目標を立ててしまったのです。そして、5カ年にわたる歳出削減額が、閣議決定される「骨太の方針」に明記される事になったのです。そして、この目標を達成するために、様々な民営化や構造改革が断行されていったのです。

この結果、日本はまた、成長のための政府支出が全く出来ない国になり、その結果、先のグラフに示したように、全く成長出来なくなってしまったのです。

この復活を実現したのは小泉純一郎首相、そしてそれをプロデュースしたのが竹中平蔵教授でした。

・・・

そもそも橋本内閣期の「赤字国債ゼロ」目標は、誰が聞いても分かり易いものでした。国債を刷らないのだなという事が直感的に分かり、だったら政府はいろんな事業を縮小させるのだな、というネガティブな側面にスグに思い至ることが可能でした。

しかし、プライマリーバランス規律と聞いても、プライマリーバランス黒字化目標と聞いても、誰もそれが何なのかが分かりません。

しかも、PBとは厳密にいえば「国債費(利払い費・償還費)以外の国債発行額」という、専門的には、ますますややこしい定義が必要になってきてしまうので、ますます一般の方は混乱して、PBについて「思考停止」してしまう事になります。

だから、「赤字国債ゼロ」目標と聞けば反発する人も、PB規律と聞いても誰も反発しなくなってしまったのです!

何とも巧妙な話ですが、その結果、国債発行額は、2002年以降、下記のグラフに示すように年々削減されていく事になります。
  

ただし、このPB規律は、今度は2008~2009年に起こったリーマンショックによって、再び撤回されることになります。

時の総理大臣は麻生太郎氏。彼は、そんな非常事態時に、PB規律なぞと言いつつ国債発行をしなければ、日本はメチャクチャになる、と言うことを理解し、PB規律を撤廃し、徹底的な財政出動を図ろうとしたのです。

その結果、国債発行額は上記のグラフに示したように一気に拡大します。

しかし……麻生太郎政権期に政権交代が起こり、民主党政権が成立。

そして、2010年、元財務大臣であった菅直人氏が総理大臣時に、折角撤廃されたPB規律が再び導入されることになります。

2020年までにPB黒字化を果たすことが閣議決定されてしまったのです。

その後、政権交代が起こり安倍内閣が成立しますが、このPB規律は法的に残存していました。安倍内閣は、その目標年次を2025年にまで五年間延期するのですが、PB規律が存在していることには変化が無く、上の図の様に、年々国債発行額は削減され続けていくことになります…。

そして、安倍内閣末期の2018年、国債発行額は約10兆円にまで削減されてしまったのです。

その結果、安倍内閣がどれだけアベノミクスの黒田バズーカを撃とうが何をしようが、日本は再び、全く成長出来なくなってしまったのです……。

ただし、ここで再び、リーマンショックを上回る経済ショックである「コロナショック」が日本を襲います。その結果、再びPB規律は事実上撤廃され、政府は約60兆円の国債発行に踏み切るのですが……政府は未だ、PB規律を堅持する姿勢を崩していません。

その結果、これから国債発行額は、これまでの経緯と同様、徹底的に国債は削減され続けることが予定される状況になっています。

……

以上の経緯の情報を追記した上で改めてGDPの推移グラフを描いたのが、下記グラフです。
1997年の「赤字国債削減」目標の設定以来、大規模経済ショック(消費増税ショック、リーマンショック、コロナショック)の度に一時的に凍結されるものの、PB規律が何度も何度も堅持され続け、四半世紀にわたって国債発行額が抑圧され、その結果として「日本だけ」が成長出来ず、衰退し続けてきたのです。

  

ちなみに、日本以外の国々で、長期にわたってPB規律を導入している国家など一つもなく、国債発行額を削減しようとし続けた国はありません。

したがって、97年に(赤字国債削減目標規律を含めた)PB規律さえ導入されなければ、諸外国と同様に、成長していたであろうことは、このグラフからだけでも強烈に示唆されていると言えます。

(そしてもちろん、デフレ脱却のメカニズムに関するマクロ経済論を踏まえても、PB規律が無ければデフレギャップを埋める十分な政府支出が実現され、停滞せず、成長し続けることが可能であったことは間違いないと言うこともできます)。

したがって……「プラマリーバランス規律」の凍結がなければ、少々の経済対策が行われても、「成長」するに足る十分な国債が発行出来ず、これまで同様日本経済が低迷し続けることになることは、確実なのです。

だからこそ、日本国民の事を本当に考える賢明な政治家ならば、思想信条の多少の相違に拘わらず、誰もが「PB規律の凍結」を主張する事にならざるを得ないのです。

万一、その「PB規律の凍結」を主張しない政治家がいるとすれば、それは賢明でないか、あるいは日本国民の事を慮る動機を持たないか、あるいはその双方に当てはまる政治家であると考えざるを得ないのです。

この総裁選の機会に、「プライマリーバランス規律」という分かりづらいものの、その内実は単なる「国債削減規律」であるということ、そしてそれがある以上、日本の再生はあり得ないという「真実」をしっかりとご認識いただきたいと思います。








この厳然たる事実を全国民が共有し

現状金融政策の大幅転換を政府に促す。


そのためにも全ての有権者へと

正しい認識を拡散することが大切ですね。







九頭龍龍