セカンド・インパクトを起こすべく、ボクは手始めにその障壁となる渡辺ヒロユキと接触をとることにした・・・。

渡辺ヒロユキ。1年F組・出席番号39番の男。身長171cm、体重62kg。
生意気に前髪と襟足を伸ばしてクールぶっており、ボクと同じ、あるいはボク以上に影の薄い存在である。しかし最近相撲部に入部し、部員勧誘ポスターとして学生証を拡大コピーしたものを学校中の掲示板に貼り出したために、変わり者として名を知られつつある。

無口で無愛想なため交友関係は狭いが、なぜかクラスの中心人物・吉岡とウマが合うらしい。また相撲部の先輩で、峰曽田学園で「変人」の名をほしいままにしている2年生、霧島大河とも親交が深い。霧島大河の妹である霧島まりあとは週に2度は共に下校をする仲であり、ボクから殺意を抱かれても仕方がないほどの罪深い人間である。

単純に消してしまうのは容易い。しかし、彼を存分に利用し尽くして用済みになった後で霧島まりあから完全に引き離してしまうのが、峰曽田の臥竜こと関口宏のヤリ方だ。

球技大会でバッテリーを組んで、彼がボクに気を許しているのは好都合。油断させておいて懐に飛び込んでやる。
クラス中から根暗なオタクと敬遠されているボクが執拗にコンタクトを取って親しげにしている姿を周囲に見せ付けることで、霧島まりあからの渡辺ヒロユキの好感度は大幅ダウンするに違いない。
いや、奴をボク以上の「キモヲタ」に仕立て上げてあげることで、今の奴のポジションと取って代わってやろうではないか。

そんなワケで早速、「関口宏のラノベ☆ホイホイ☆大作戦」を決行する。
6月某日の授業終了後、掃除のためにクラス全員が机を動かそうとしている中、渡辺ヒロユキはアホ面を頬杖でささえながら眠っている。
湧き出す手汗をズボンで拭いてから彼の肩を叩き、寝ぼけたアホ面に話しかける。

「ワ、渡辺君、これ、面白いから読んでみなよ」
「ん・・・ああ。マンガ?ありが・・・!?」

ばかめ!www
ボクの手から本を受け取った渡辺ヒロユキは、表紙を見るなり一瞬にして顔を真っ赤に染め、目にも留まらぬ速さで本を机に隠したのだった。
それもそのはず、その本についてご説明しよう。タイトルは、

『独裁女子高生☆あたしがゼッタイ☆』
世界大戦中に栄華を極めた亡国の独裁者。終戦間際、敵対国からの侵攻に加え側近からの裏切りに遭った彼は、窮地に陥る。
絶望と怒りに震えながら銃口を自らのこめかみに押し付けて引き金を引き、人生に幕を下ろした。・・・はずだったのだが、彼、いや彼女は目を覚ます・・・。
平成の日本に、身も心も女子高生として転生した「独裁幼女」が、学園征服をなすべく繰り広げる大人気学園ドタバタラブコメディ小説である。
表紙はこんな感じだ↓

ミネソタ・ハリケーン

一般人には刺激が強かろう。

慌てふためき、キョロキョロと周りを見回す姿がマヌケで笑いそうになるのを堪えながらたずねてみる。

「お、お気に召さなかったかな?(ニヤリ)」
「いや、読んでもいないものを批判すると、有刺鉄線を乗り越えて怒り出す知人がいるからね。まだ何とも言えないよ。でも、こういうタイプの書籍は、カバーをつけて渡してくれるとうれしいかな」
「ああ、気が利かなくてごめん。次からはそうするよ(ニヤリ)」

ばかめ、大人ぶりやがってwww
ボクを傷つけないようにするその気遣いが、貴様の首をしめるだろうwwwwww
「読んだら感想聞かせてよ、それじゃ」
「うん。読んだら、ね」

こうして、「関口宏のラノベ☆ホイホイ大作戦☆」は始まった。
しかし、「独裁女子高生(略)」の本当の恐ろしさは、表紙なんかではない。その内容にある。
読み始めたら最後、独裁少女ユリアの独裁に振り回される主人公・「ヨシノブ」に感情移入し、登場する6人の女性キャラの中から「俺の嫁」を見つけてしまうことだろう。そしてクライマックスの生徒会役員選挙でのヨシノブの応援演説には涙するに違いない。


三日後。
狙い通り。
6時限目終業と同時に渡辺ヒロユキの方から紙袋を手にボクに近づいてきた。袋の中のブツをコソコソと返そうとしてくるので、あえて大きな声で言ってやる。
「おや?そ、それは『独裁女子高生☆あたしがゼッタイ☆』じゃないですか!もう読んだのかい?渡辺君も好きだねぇぇ。
 じゃあ、これが欲しくなっただろう?こ・れ・が」

ボクは机から「独☆ゼツ☆」第2巻を取り出し、必要以上に高く掲げてみる。
お望みどおりカバーはつけてある。予約特典付録、「体育@ブルマばーじょん」のカバーを。

いくつかの冷たい視線がボクと渡辺に向けられているのを感じる。
だが、ボクの体は熱く火照る。

霧島、いや、まりあ。君も見ているかい?
ごらん。渡辺ヒロユキは、この表紙みたいな女の子に、君を重ねているんだよ?
そう。ボクみたいにね・・・・。

このままコイツを利用して、セカンド・インパクトをおこしてやるんだ。
ボクの名は関口宏。傍観者でありながら、霧島まりあにふさわしい男である。

つづく。