もう15年以上前、俺はオックスフォード大博士課程で美術史を専攻している情熱溢れる学生だった。波乱万丈の学生生活で、最終的に退学になるわけだが。
オックスフォードを選んだのは、考古学、美術史のスーパースター、ナイジェル先生に憧れたからだ。筆記はカンニング、面接は得意。論文は300ポンド払って業者に書かせた。先生は幸いゲイだったので、ウインク一つで気に入られた。
そんなわけで軽く合格し、ナイジェル先生の指導を受けられることになった。ところが、なんと9月の新学期を待たずに先生はアウトバーンで事故死した。フェラーリが先生の棺桶代わりになった。
そこでナイジェル先生の一番弟子で、当時オークション会社クリスティーズロンドンのスペシャリストをしていた若き天才、ステイシー女史が大学創立以来最年少で大学院の教授に就任し、俺の指導教官になった。
ステイシーは野心と知性の塊で、実際とてもチャーミングだった。抜群のスタイル、少女のような屈託のないスマイル、気さくな性格、時折見せるセクシーな眼差し。男子学生も教授もゲイ以外はみんな彼女に夢中だった。
若くて美人なステイシーと彼女の部屋で二人きりで指導を受けるうちに、俺たちは自然と不適切な関係になった。2ヶ月もしないうちに俺はステイシーの部屋で暮らすようになり、毎日ところかまわず関係を持った。
ステイシーはとてもワイルドで、酒に酔った夏の夜のハイドパーク、ちょい汚い池の中で愛し合ったことも何度かあったし、論文もほとんどステイシーに書いてもらった。
当然、これは公正、公平を重んじる英国の教育界のポリシーに大きく反する違法行為だ。ばれたら二人とも永久に英国高等教育界から追放されるだけでなく、ポリスに逮捕されることもある。
そうなれば、大衆紙に面白おかしく書かれ一生恥をさらして生きていくことになるだろう。どこかの日曜大衆紙にステイシーが盗聴されてなくて本当に良かったと思う。
ステイシーは強い野心を燃やして、駆け足で美術界を駆け抜けた人で、世界最大手の画商の社長秘書から、世界最大の競売会社クリステイーズ本社のチーフスペシャリスト時代には、世界中の大富豪と交わり、美術界のみならず政財界の裏の裏まで知り尽くしていた。
彼女の話は本当に面白くて、夢中で聞きほれた。同時にアートビジネスについて色々なことを基本から応用編、闇取引から金の流れ、それにここでは言えない様なスキャンダルも全部教えてくれた。これは、今の俺の全ての基礎になっている。全部、彼女から学んだ。
まぁ、そんなこんなで1年くらいは万事ハッピーだったのだが、なんていうか倦怠期が訪れた頃に、気分転換にアムステルダムに悪友と二人で行ったのがまずかった。
アムスに着くや否や俺たちはハッパを吸いまくり、飾り窓の女を片っ端から抱きまくった。最高にラリってた俺たちは、朝、全身の痛みで起きるとアンネの家の前のゴミ箱に半ケツで捨てられてた。財布も金も携帯もないし、靴も片方しかないし、悪友もいない。
よくあることだ。対処法は心得ている。顔に泥をつけて服を少し破る。野良犬を探してきて、そばに座らせてダンボールに「犬のえさ代をください」と書いて空き缶を置いておけば半日で7ユーロは固い。そんだけありゃ、格安バスでロンドンに帰れる。
さて、ひどい有様でロンドンに帰った俺を待っていたのは、ステイシーのヒステリーと嵐のような暴力。イギリス女のパンチは本当に重い。ステイシーは手の骨が折れるまで俺を殴り、翌日には部屋と大学を同時に追い出された。
文無し、部屋なし、居場所なし。どうしたもんか。ポッケには2ペンスしかない。せめて6ペンスあれば・・・
月を見上げてそう呟いてみたが、2ペンスだろうが6ペンスだろうがロンドンでは勿論何も買えない。
to be contined...
