ブリュンヒルドが最終兵器であり、ベルセルクが最強であったのは、ドラキュラ不在が前提だった。
 ドラキュラがいれば、最強に類似する称号は全てドラキュラに集まる。

 ドラキュラはそれ程までに強い。


 彼の一挙手一投足で、大地が割れ、海が割れ、空が焼ける。これらは全て、逸話などではなく事実だ。

 


 幾度となくクリエイションを行ってきたサクラには分かる。


 ドラキュラに勝る生物は創れない。


 サクラの最高傑作である不死身のベルセルクも、彼の前では不死性を発揮できないだろう。
 むろんサクラ自身も同じだ。

 不死でこそないドラキュラだが、彼の一撃は金毛種の核を消滅させるに足る。



"私の負けです。"


 闇夜の輝きと虹色の光が乱れ舞う空間に、サクラの声が響いた。

 

 

"私の持ち得る全ての力を使っても、今のゴーリオには勝てません。それどころか、私とベルセルクの運命は彼に握られている。"

 

 サクラが小気味良く指を鳴らすと、周囲を埋め尽くしていたヴァンパイア達が消え、中央に長身の女性が現れた。


"もう終わりよ。あなたのVマイクロムは私が強制分離したわ。あなたはもう、ただの神河リオン。共に潔く消えましょう。"

 

 これはサクラにできる最大限の意思表示だった。

 あとは怒れる竜の裁きを待つのみ。
 サクラは瞳を閉じ、審判の時を待つ。



 パチン…。

 音がした。


 長身の女性が、闘いとは縁遠い滑らかな腕で紅蓮色の男を叩いたようだ。
 その音は、痴話喧嘩の末に女性が男性を叩く音に似ていた。


"無駄な抵抗はやめて。天地がひっくり返ったって彼に勝てやしないわ。"


 パチン…。

 再び痴話喧嘩の音が響いた。
 男は構えもせず、そこに立ったまま女性を見つめている。


"消えて!あなたの中にベルセルクはもう居ないの!"

 パチン。


"戦う理由はないの!お願いだから消えて!"

 パチン。パチン。


「私はベルセルク。戦う理由は、私自身だ。」

 長身の女性が冷たく言った。

 


 握られた彼女の拳は、赤に染まる。