「おおおおおおっ!」

 ゴーリオが竜を呼んだ。

 マルセロは確かに見た。
 無機質な空間に突如として現れた、両翼にこの星を抱いた紅蓮色の竜を。

 竜が星を天に返し、代わりにゴーリオを抱くと、彼らは1つになった。


「あれは…、ヴァンパイアなのか…?」

 

 姿を一目見ただけで全身から冷たい汗が噴き出す。


 そこには、背中から怒れる羊の角を3対、更に頭部からも2対、全身から合計10本の角を生やす、紅蓮色の人に姿を変えたゴーリオがいた。
 お世辞にも「美麗」とは言い難い姿だが、確かな神性を孕んでいる。



"ま、まさか…こんなことがっ…。"

 サクラは「それ」を知っていた。

 あれは忘れもしない、46万年前。
 神の総攻撃の受け、地球は崩壊の危機に陥った。

 

 そこで地球は消える運命だった。

 

 果たして地球は、46万年もの間、再生を続け、今に至る。
 再生の始まりには、崩壊を防ぐため地球と一体化した、ドラキュラの力があった。

 一体化する間際のドラキュラの姿は、怒れる10本の角を生やした紅蓮色の竜…。


 ドラキュラは消える前に言った。

「余の力は愛を代償に、愛するもの以外の全てを護る。」
「余はこの星を恨み、そして愛した。なればこそ、余は愛を捨てようぞ。」

 

「余は誓う。永遠にこの星を愛さぬと。」

 ゴーリオは失われたドラキュラの血を大地から与えられている、とサクラは理解し、同時に突きつけられた運命を悟った。


 地球再生を司っていた自分は、いつの間にか「地球を破壊しうる存在」になっていた。
 FRIGGの限界を超えた性能を引き出す、第3の能力を構想し始めたあの日から、今日が決まっていたのだ。

 無尽の再生力を持つ金毛種ハイブリッドの誕生は、新たな争いの火種となる。

 地球は、この星に住まう者達が思うほど平和ではない。
 事実、神の抑止力が無くなって以降、地球は数千年おきに外敵からの侵攻を受けている。

 

 その度にサクラは、サクアモイとして孤独に戦い、地球を守り抜いてきた。


 永遠を生きる知的生命体は全宇宙の中でも稀だ。恐らく100体もいない。

 サクラ1人存在するだけで、地球はこれだけの危機に晒されてきたのに、そんなレア物を無尽蔵に産み出せる「自分」が誕生してしまった。

 

 今後の地球は、今よりもっと危機に見舞われる。


 原因は、他でもないサクラだ。