私は夢を見ていた。

 水だけが延々と広がる世界に、私はたった1人。

 腰まである水は、冷たくもないし、熱くもない。
 空には星が輝いていて、水に映る星々は美しい。

 私が動くたび、水面の星が割れて消えた。



 どーも、お久しぶりの「私」です。
 なんだか、わざわざ今の夢を見せられてた気がする。


 ご先祖様の声が聞こえた後、不覚にも私は気絶してしまった。
 気絶する直前、不思議な感覚に襲われたのを覚えている。

 

 星の大地と白い空間、その両方が重なって見えた。
 白い空間は「狭間の世界」だと思う。

 白の視界は、また赤いフットネイルから始まった。

 

 今度は、足元から上に、ゆっくりと移動していった。

 星の大地を見ている視界は、動いてなかったと思う。

 赤いフットネイルの女性は、真っ白なロングドレスを着ていた。
 ドレスの白さに負けない、透き通るような肌がとても綺麗で、少し小振りな胸元に飾られた白金のネックレスがとても上品だった。


 細い首から流れるように繋がる輪郭の向こうで、紫色のピアスが揺れた。

 

 真っ赤なリップに彩られた瑞々しい口元は微笑んでいた。
 左側に癖のある笑顔だった。

 もう少しで顔が見れる。

 

 そこで気絶した。



《姫様、脳波、が、クソミソ、です、ぞ。》

 

 上書きされた言語ファイルから「最も適切」だと思われる単語を選んで、爺が言った。
 どゆこと?私はラRホーとメDパニの重ね掛けが効く体質だってか?それとも、生まれつき脳波がおかしいの?
 てか、爺もスリープしてたっしょ?

 左のほっぺにピアスの形した寝癖がくっきりついてる。
 爺のほっぺをいつもより多くツンツンしてやろうと思ったら、指がすり抜けてしまった。

 爺も私も、ホログラムみたいに透けている。


《爺、を、中継、して、特定第三者、との、平行Fァッキン、を、トライ中、ですじゃ。》

 何言ってんの?そういう状況じゃなくない?

 今になって気づいた。
 星の大地が見えない。
 この場所には何もない。


《はて?何、の、こと、です、かな?》
《クレーター、通称、星の大地、は、見えて、おります、ぞ?》

 爺が普通に返してきた。
 リンクモードは解除されているはず。


《リンクモード、は、解除、されて、おります、な。》
《波形、の、解析結果、に、よると、姫様、と、特定第三者、は、完全同調、する、恐れ、が、あります、のじゃ。》
《…ペッ!》

 状況が掴めない。
 爺には星の大地が見えていて、私には見えていない。
 その上、リンクモードが解除されているのに会話ができる。

 

 てゆーか、いま何を吐いた!?なにそれ?唾なんて出ないでしょ?


《全て、姫様、の、認識、で、あって、おります、な。》
《完全同調レベル、の、脳波、Fァッキン、は、いずれか、の、自我、が、オカシクナッチャウ、する、恐れ、が、あります、のじゃ。レコメンド、できません、ぞ。一方的な、視・聴覚、の、ハッキング、なら、可能、かつ、安全、です、ぞ。ハッキング、しますか、な?ん?どう、なんだ?したい、のか、な?》
《排出予定、の、バクテリアグリス、を、有効活用、した、まで、です、じゃ。》

 言葉遣いが変になっても、やっぱり爺は無駄にハイスペックだ。とりあえずハッキングってのをやってみよう。

 バクテリアグリスってなんだ!?
 寝癖は直ったけどさ、定期的にそれやってたなら、もうほっぺすりすりしたくないんだけど?


《…週1、は、欠かさず、グルーミング、して、おります、ぞ。》
《それでは、姫様。視覚、と、聴覚、を、シャットダウン、して、くだされ。》

 シャットダウンとか、簡単に言わないでよ。普通の人間には無理だから。
 私は瞳を閉じて、耳毛が山盛り生えるイメージをした。もうほっぺすりすりしない、と強く決意しながら。


 リアライズできなかった。


《早く、シャットダウン、して、くだされ。姫様、は、グズ、で、いけない、クソBッチ、です、じゃ!》

 マルセロさんの端末にはどんなファイルが入ってるのでしょうか。
 言語ファイルの上書きされ具合が酷いです。

 右ほっぺにモフモフを感じたので目を開けたら、爺がほっぺすりすりしてやがった。
 わざとだろ?そこは普通にツンツンしようよ。

 

 そんな事より、リアライズできなくなったんだけど!
 私、女神姿だよね?


《女神姿、です、が、Vマイクロム、が、休眠、して、おります、な。それ、が、リアライズ、不能、の、原因、と、推測、されます、のじゃ。》
《少し、痛み、ます、が、強制Fァッキン、します、かな?》

 少しでも情報が欲しいからお願い。


 …おごごごおぉぉぇえっ!

 

 痛む部位もちゃんと言ってよ!
 今の私、完全に白目剥いてたでしょ!

 脳みそが溶けるかと思った。


《白目、を、超えた、クソBッチ、で、ござい、ました。Fァッキン完了、です、じゃ。》

 …それ、単語の使い方はあってるのかい?

 すげぇ!誰かさんの視界になってる!
 でもなんか、曇ってるっていうか、汚ったない水の中に居るような?
 あ、マルセロさん達だっ!おーい♪何してんだろ?
 てゆーか、遠っ!そして、高っ!
 私は「屋上展望プールでシンクロする人」の視界に接続したの?


《完全同調レベル、の、脳波、を、持つ、クソBッチ、な、サムバディ、です、じゃ。》
《皆様、お元気、そう、です、な。》

 その単語、気に入ってるの?
 それ以前に、そこは「誰か」で良くない?


《お気に入り、登録、して、ます、のじゃ。てへぺろりん♪》

 そんな単語「お気に入り」にしないでよ。あとで消してよー?



"そんなに化け物と遊びたいなら、その願いを叶えてあげましょう…、??"

 あ、誰かさんが喋った。
 いきなりボスっぽい発言!

 声は女性だね。ママの声にちょっと似てるかも。


 …あれ、この声…?


 私の意識は、ここで、再び途切れた。