「ゴリオ!ミヤタさん!フィ!今すぐ逃げろ!」

 彼らは動かなかった。
 俺に理解できても、彼らが理解するには説明も、時間も、知識も不足している。
 それに、状況はどうあれ、彼らにとってサクラは、偉大な母、サクアモイと同一なのだ。


「あれは、偉大な母なんかじゃない!准尉でもない!あれは、お前達を食おうと思っている化け物だ!」

 俺は駆け寄ってゴリオとミヤタさんの肩を掴んだ。彼らの身体は想像していたよりも硬かった。
 特にミヤタさんは顔面蒼白のまま微動だにしない。彼女の腕の中から、フィが大きな瞳でこちらを覗く。

 

 サクラの攻撃方法は不明だが、このままでは3人とも簡単にやられる。赤子の手を捻る方が10倍難しい。

 


 なぜそうしたのか分からないが、俺は3人を抱き寄せて呟いた。

 それは自分でも聞き取れないくらい小さな声だった。


「俺が守ってやる。」


"化け物だなんて…。酷いわ、マルセロさん。外見がコンプレックスなの知ってるくせに…。"

 サクラが両人差し指を合わせながら悪戯っぽく笑った。

 

 俺は彼女と3人の間に立ち、ハンドガンを構える。
 彼女の目的が俺との再会であるならば、俺に危害を加えない。俺自身が一番の安全圏になるはずだ。

 それに、俺「も」死なない。


"そんなに化け物と遊びたいなら、その願いを叶えてあげましょう…、??"

 サクラが再び瞳を閉じた。
 瞳さえ見えなければ、彼女は俺達の知る女神と区別がつかない。



 ズズズズズズズ…

 不規則な振動を足に感じる。
 発振源は、この部屋全体…、違う。これは目の前の物体が振動する音だ。
 不規則なのは振動しているのが1つではない証拠。恐らく全ての物体が振動している。

 

 物体の中身を考えると好ましい状況とは言い難い。

 俺は躊躇なく発砲した。
 時間の許す限り物体を撃つつもりだが、マシンガンでないのが悔やまれる。


 ズズッ…………

 振動が止んだ。

 最後の1発はチャージ不足だったのか物体に弾かれた。

 

 僅かな時間で俺が破壊できたのは、たった3個。なるべく大きな物体を狙ったつもりだが、焼け石に水とはまさにこのこと。

 

 緊張に耐えかねて唾を飲み込む。ゴクリと鳴った喉が、静けさの中で自己主張する。

 続いて、ハンドガンがチャージ完了を自己主張した。



 ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 間もなくして物体が連鎖的に弾け、次々と周囲を赤茶色に染め上げる。やがて辺り一帯は、幻想的な赤茶色の霧に包まれた。

 頬を撫でる機械的な風が、霧を少しずつ薄めていく。


「少しはふざけろ…。予想通りじゃねぇか。」


『全世界激震!ヴァンパイア大集合!』

 ふざけた映画のタイトルが頭に浮かんだ。
 どこまでB級映画テイストで攻めるつもりだ、と場違いなツッコミをする俺がいる。