マルセロ達が知る女神の瞳は吸い込まれそうな青だ。
 それに対して、球の中から厳かに見下ろしている女神の瞳は血の様に紅い。

 

 例えるなら、澄み渡った青空と、底が見えない血の沼。それほどに違う。


「マルセロ様!あれはジュイ様ではないのですか!?」

 今にも決壊してしまいそうな顔でミャタポが叫んだ。


「…まいったな。俺が思ってたより状況はヤバイみたいだ 。」

 マルセロは常に冗談めいて言う。彼が自分達と異なるのは理解しているつもりだ。それでも、彼の言動はミャタポをイラつかせる。


"もう一度、あなたの手を取るのは私。そのために今がある。"

"全ては私が仕組んだこと。私は…、今、この時のために宇宙の理を解析した。30万年かかってやっと解を見つけたわ。"


"永遠を生きられる私にだけ存在してしまう、あってはならない複数の特異点。"

"10万年待ち続けた。いいえ、意図的に地球の再生を10万年先延ばしにした。だって、次に特異点がやってくるのは270万年後ですもの。"

 

"こちら側の条件が全て揃った特異点の瞬間だけ、私は時空を超えて、過去に1つだけ存在した私自身の特異点に干渉できる。"

 

"過去の特異点…。"

 

"それは、HCマインに晒されたあの時。"
"干渉できる過去が、奇しくもあなたを未来に呼べる唯一無二の可能性とイコールだった。運命だと思わない?"

 女神の顔に浮かんでいるのは狂気。
 たった1人で数十万年にも及ぶ時を生きて来れたのは、この狂気があったからなのだろう。
 まさか女神を不気味に思う日が来ようとは、マルセロ自身思ってもいなかった。



"ついに、再生品ではない本物の私自身を手に入れた。そしてマルセロさん、あなたもここにいる。…もう少しよ。もう少しで、またあなたに触れられる。"

 紅い瞳の女神が朗らかに笑った。



"選ばれた3人は私の遺伝子が特に多い特殊個体。この身体ともきっと馴染むわ…。"

 言葉通りならば、赤い瞳の女神(未来のサクラ)の目的は、俺との再会。
 ゴリオ達「選ばれし民」が星の大地に導かれたのは、再開後に彼女自身が「存在」するため。

 そして、准尉は新しい器だ。

 

 

 本人は否定しているものの、彼女の話からして、サクラが准尉の身体を乗っ取ったと考えて良いだろう。外見は准尉でも、中身はサクラ。

 

 身体を得た現在も、サクラは何らかの理由により、FRIGGから出られずにいる。

 

 必要なのは、准尉との「完全な同化」か。

 

 

 順当に考えて同化の鍵は、ゴリオ達3人の血…。

 


 たった一度だけ見せた准尉の笑顔が脳裏に浮かぶ。
 あの時の彼女は、間違いなく黄昏の主役だった。

 

 サクラの見せる笑顔は、准尉のそれとは似て非なるもの。