マルセロはハンドガンを抜き、銃口を目の前の物体に押し付けた。
 ゴリオ達に会話が聞こえていなかったのは本当らしく、彼らは状況が掴めずに困惑しているようだ。


「腐れAI、もう少しマシな話を考えたらどうだ?なにが46万年だ!金属がそんなに残るかよ!」

 マルセロは躊躇するなく引き金を引いた。
 物体の上半分が熟れた果実のように吹き飛び、中に満たされていた赤茶けた液体が辺り一面をまだらに染める。


"…信じてくれないのね。"

「准尉はさっきまで一緒だった。お前みたいなボッチAIの妄想に付き合ってられるか!」

 ハンドガンが再び光を放った。
 今度は少し大きめの物体が先ほどと同じ様に弾け飛び、辺りの赤茶色を一層濃くする。


"痛い!やめてっ!"

「その痛みはプログラムだ。AIに痛覚はない。」

 マルセロは冷たく言い放ち、ハンドガンを頭上の球体に向ける。


 女神は瞳を閉じたままだ。

 先ほどまでと異なるのは、背中に接続されているケーブルが2本、途中から千切れて垂れ下がっていること。
 千切れたケーブルの先端から漏れる液体が、球体の中の白濁した液体を少しだけ赤く染めて拡散する。


「マルセロ殿!ジュイ様を撃つおつもりですか?」

 ゴーリオが銃口の前に立ちふさがった。
 途中から1人で叫び出した挙句、女神にまで銃口を向けたマルセロを見て、ゴーリオはマルセロが錯乱した、と思う。

 次にどう動かれようと対処できるよう、ゴーリオはマルセロに全神経を集中した。

 

 同時に、ミャタポもマルセロの変異を疑い、警戒を強めた。

 この場所はサクアモイの祭壇。人ならざる人、であるマルセロに悪い影響が出た可能性も否めない。
 彼女は無意識の内に翼の中のフィーリャを抱きしめていた。


「ああ。ぶっ壊して俺が准尉を救う。腐れAIが簡単に撃たせてくれるとは思えないけどな。」

 ゴーリオは総毛立った。

 マルセロの瞳が冷たい。マルセロは本気だ。

 

 周辺の物体が破壊されると、球中の女神が傷を負う。この事象だけは、ゴーリオにも理解できた。
 撃たれてもゴーリオ自身は弾くだけなので問題ない。問題は逸れた光波の軌道が読めないことだ。
 物体がこれだけ広範囲に広がっていると、どれかには当たってしまう。光波が2つ以上に分れて逸れることだってありえる。
 そうなると被害は更に拡大する。

 最善策は撃たせないこと。


 説き伏せる、もしくは、打ち伏せる。

 


 ゴーリオは覚悟を決めた。