「…ませお…、フィ、…頭が、痛い…。割れそう…だぞ…。」
フィの言葉に俺はハッとした。
フィは時折、超感覚を発揮する事がある。
例えば、准尉と会話していたり、何かを予測していたかの様な行動を取る時がある。
もし、フィの超感覚が「音」に由来するものだとしたら、フィの苦しみ自体がこの状況を打破できる可能性を秘めている。
前言を半分だけ撤回する。
苦しむフィには悪いが、続けて起こる凶事に一筋の光が紛れている事もある、らしい。
「フィ…、教えてくれ。音が…、頭の痛くなる音が聞こえるんじゃないか?」
フィの手を取って祈る様に聞いた。
「うん…。下…、下から、イヤな音がする。」
フィは弱々しく足下を指差す。
俺の推測通りなら、恐らくフィは反重力装置から発生する超低周波の影響を受けている。
そして、これも推測だが装置の位置が特定できた。
装置があるとすれば。
「ミヤタさん!俺達がいる板の下に光ってる部分はないか?」
俺はフィの手を取ったまま、ミヤタさんに可能性の半分を託した。
ミヤタさんは、確認してまいります、と言葉が届くよりも先に姿を消した。
風の民は、飛べるだけでなく、動作も素早い。ミヤタさんは風の民の中でも特に速い。
「1つありましたわ。飛べれば詳しく見られますが、板の下は風が凪いでおりますの。」
ミヤタさんの声が少しくぐもって聞こえた。
彼女が、凪いでいる、と表現しているのは、重力制御の影響で空気の流れが正常でないのを意味しているのだと思う。
声がクリアに聞こえないのも同じ理由で説明がつく。
答えは分かった。
問題は方程式だ。全員が無傷で下に降りるための方程式。
『装置を破壊した後に飛び降りる。』
我ながらシンプルだ。
こういう時はシンプルな方が良い。ミヤタさんにハンドガンを渡せば70%解決する。
俺はグレイプニルにハンドガンを括り付けて下に垂らした。
「ミヤタさん、こいつで光っている部分を破壊してくれ!」
しかし、いくら待ってもグレイプニルからハンドガンの重みがなくならない。
「…ミヤタさん?」
「…ご指示に従いたいのですが、私には少し…。」
そうだった。ミヤタさんの長い指ではハンドガンを操作するどころか、握る事すら難しい。
また1つ可能性が消えた。
「ミヤタさん、すまない。俺、よく考えずに…」
「この糸…。いつも狩りでお使いの物でしたら、私を引き上げていただければ破壊いたしますが?」
俺の言葉を遮ってミヤタさんが言った。
非力な彼女が装置を破壊できるなら、その提案は非常にありがたい。
「光波で壊せるのなら、私でも壊せます。周りの風を集めて参りますわ。」
動物人間達は、光波、つまり「エネルギー弾」を兵器として考えていない。
俺達の価値観に当てはまるならマッチやライターくらいだろうか。便利なエネルギーの1つ、と言った程度で、光波単体の危険度はオモチャにも劣る、という認識だ。
「準備は整いました。」
真偽の程は分からないが、ミヤタさんは風を集めてきたらしい。
彼女が踊っていただけに見えたのは…、俺の見間違い、なのだろう。