ピッ…ピピッ…

 

 ガガガ…ガコンッ…

 


 電子音と共に円盤の淵だけが鈍く回転を始め、見えない力が私を円盤に押さえつけた。
 身動きが取れない中、視界の端で、下から特殊強化ガラス製のチューブがせり上がるのが見える。

 淵の回転が止まるのと、押さえつける力も少しだけ和らいだ。しかし、すでにチューブは遥か頭上にまで伸びてしまっていて、その高さは私の身長の5倍以上ある。
 私は全身の力を振り絞って、聳え立つチューブを叩いたが、破れる気配のない頑丈な音が響くばかり。

 


 もう一方の窪みでも同じ現象が起こっていた。
 マルセロさんが私の方を向いてチューブを叩いているのに、あちらで響いているはずの頑丈な音は聞こえない。

 代わりに、足下の奥深くから不快な音が聞こえる。
 フィにもこの音が聞こえているのだろうか。フィだけが聳え立つチューブではなく、足下を見つめる。

 次の瞬間、分厚い空気の塊が予告なくチューブ内に満ちる。
 その圧倒的な圧力に並みの生物が耐えられるわけもなく、非力な私はそのままの姿勢で固まった。

 

 あちらのチューブは、こちらほどではないのか、はたまた、こちら以上なのか、全員が四つん這いで耐えている。
 ゴリオがミヤタさんを、マルセロさんがフィを、それぞれ抱えて護る猶予があったのは幸いか。

 チューブに満ちる、私を包む空気はどんどん厚くなり、やがて私達の自由は完全に奪われた。

 濃すぎる空気は呼吸さえも阻害する。けれど、不思議と息苦しさはない。
 

 

 固まる私を他所に、あちらの円盤だけが下降を始める。
 大地の中に飲み込まれる直前、マルセロさんが必死に何かを叫んでいた。

 彼は私に何を伝えたかったのだろう。


 心が騒つく。



 やがて私は、灰色の大地を見つめるオブジェになった。



 仲間の行方は分からない。


 孤独な時が流れる。


 誰もいない。


 この大地は鳥も飛ばない。


 空気で満たされた、破れることのない頑丈なガラスチューブの中に、私はたった1人。


 身動き1つなく、ただ時がすぎるのを待つ。



 永遠にこのままかも知れない。


 きっとこのまま、何年も、いや、何百年も、誰の目に触れる事もなく過ごすのだ。

 星の大地に祀られた女神像としての一生を覚悟した時、声がした。



「さくらちゃん、起きて。」

 それは、いつか狭間の世界で聞いた、お節介なご先祖様の声。