生体識別装置、通称PIES(ピーズ)。

 窪みの中央で煌めいていたのは、騎士団の施設にあるPIES、いわゆる受付装置と思しき装置だった。
 金属製枠のツヤが装置の真新しさを物語る。

 私の知るそれとは少し異なった外観をしているが、恐らくこれはDタイプのPIESで間違いない。基本構造に見覚えがある。
 Dタイプはディスプレイと薄いフィルムが一体になっていて、画面の上に手を置くと、フィルムが手の毛細血管を3次元測定し、登録生体を識別する。
 数あるPIESの中で、最も普及している信頼性の高い装置だ。


「准尉!こんな所にDタイプがあります!」

 あちらの窪みにも同じ物があるらしい。
 興味深く覗き込む動物人間達の隙間から、マルセロさんが叫んだ。


『認証してみよう。』

 マルセロさんの目を見て頷く私に、彼は右袖の腕まくりで応える。



 画面の中央に右手を置くと、弾力のある画面が手の形をなぞって少しだけ沈んだ。
 バケツゼリーの上に手を置いたら、こんな感じなんだろうか。

 すぐさま画面と枠の両方から手に向かってレーザーが照射され、スキャンが始まった。
 レーザーの動きや反応が通常よりも速く、2秒と掛からずにスキャンを終えた。Dタイプは確実性向上のためにスキャン速度を犠牲にしているはずなのに。

 東京本部にあった最新型でも、ゆうに10秒は掛かっていた。


"東方騎士団所属"

 ディスプレイに私の登録情報が表示され始めた。
 つまり、PIESを制御する中央システムは稼働している、ということ。


"特務2顧問"
"衛星軌道防衛艦ナグルファル付"
"特別編成迎撃部隊長"

 しかし、なぜか見慣れない単語が続く。これは、誰の情報なのか。



"サ…ラ・……ノ…少佐"

『私の情報じゃない!?』



"認証完了"

『違う!私じゃない!』



"認証完了"

"認証完了"

"認証完了"

 


 繰り返される表示が、間違いではない、と主張する。