窪みから出るよう、フィに顎で指示をし、マルセロさんだけを立たせ状態で、観察を始めた。


『んん?窪みが一ヶ所だけ赤く光ってる!?』

 マルセロさんが半分踏んでるけど、確かに赤く光っている。
 仮に左右対称の図形だとすれば、あれは三角形。外向きの二等辺三角形だ。

 三角形の先が示す壁面を見る。


『あった!ぼんやり赤く光る下向きの三角形!』

 マルセロさんが立ってる位置より少し上の壁面にそれはあった。


 私は急いでゴリオとミヤタさんが立っている窪みに向かう。


『やっぱりあった!ぼんやり赤い三角形!』

 三角形はミヤタさんの足元近くにあり、もう一方の窪みにあった三角形と同じく外側を向いている。


『壁面には?』



 なかった。

 こちら側にかかっている重さがまだ軽いのかも知れない。

 フィを連れて来て、一緒に窪みに立ってみる。


『見えた!下向きの赤三角形!』

 だけど、先っちょが少しだけ隠れたまま。
 

 


 状況を整理しよう。

 私達の立っている窪みは重さが足りていない。
 逆にマルセロさんのいる窪みは少し多い。


 つまり…?

 

 

 マルセロさんじゃなくて、私かぃ!



 私はマルセロさんの元にトボトボと向かい、彼の肩をポンと叩いた後、叩いた手の親指で、ビシッと勢いよくゴリオ達が立つ窪みを指した。


『ボッチは私だとよ!』

 できる女は目で語る。
 察したマルセロさんは、申し訳なさそうに頭を下げてから「みんな」の元へと去った。


 私とマルセロさんは、窪みを背に向かい合う。
 私が何をしたいのか、今は彼も理解しているようだ。

 私達は呼吸を合わせて、お互いに1歩下がった。


 2人の足が同時に降りる。





 ピピッ…

 

 

 プシューッ!

 ココに来てから、爺とタマから鳴る以外、久しく耳にしていなかった電子音に続き、窪みの隙間から強烈な風が吹き出してきた。

 

 反射的に目を閉じてしまったが、見なくても風が土を巻き上げているのを感じる。

 


 はたして風は、30秒ほどで止んだ。
 頬を掠めていた土は、きっと空の彼方に行ってしまっただろう。

 目を開けて周囲を見渡す。
 ヒビ割れた灰色の大地に変わりはなかったけれど、私の立つ窪みはその様相をまるで変えていた。

 

 露わになった窪みの正体。

 

 それは明らかに人の手によっては加工された金属の円盤だった。
 先ほどまでぼんやりとしていた赤く光る三角形も、土が消えた今は、光と輪郭がクッキリと見える。


 ピピッ…

 再び電子音が鳴り、円盤の中央部が音もなく開いた。


 開口部には「見覚えのある装置」が煌めいている。