「じゅい?まだ寝てんの?」
うへへ。耳くすぐったい。
「じゅい?星の大地に着いたよ?」
うひひひひ。脇腹は反則ぅ。
『そうだ!星の大地!』
目を開けて、ガバッと飛び起きる。
振り落とされまいと首にぶら下がっている、フィと爺を抱きかかえて、私はボルシチを降りた。
ボルシチは、乗用に向いているから、とゴリオが捕まえてくれた巨大トカゲだ。
尻尾を入れた体長は約8メートル。足が下向きに生えている不思議なトカゲで、地面から背中までの高さは約120センチ。背中はキングサイズベッドくらいの広さがある。
普段は私とフィが乗っているほか、余ったスペースにフィ用の水瓶とみんなの荷物を積んでいる。
早い話が馬車だ。
ここが、星の大地。
南米基地を後回しにしてまで目指した場所。
どんな場所なのかは、周りを見渡せばすぐ分かる。ここは巨大なクレーター。
その中心に私達はいる。
ピピッ…。
《長径、約12km、短径、約8km、深さ2km、ENEーWSW長軸、の、楕円形クレーター、です、じゃ。画像、と、地質データ、の、マッチング、は、ありません、です、じゃ。》
爺お得意のインスタント測量が完了した。
クレーターの内側に生き物の気配はなく、ヒビ割れた灰色の大地が広がっているだけ。緑豊かな外側とは、全くの別世界だ。
地質データが不明なのは、比較的新しいクレーターだからかも知れない。
「ジュイ様、それがサクアモイ様を祀る祭壇への扉だと言われていますわ。」
ミヤタさんが、フィが中に入って遊んでいる丸い窪みを指差して言った。
窪みは2つあって、それぞれが5メートルほど離れている。窪みは不自然なほど丸い。
窪みの直径はだいたい2メートル。見方によっては、円形の窪みが直線に並んでいる、と言える。
『あれ?これ、もしかして…ゼRダ的なギミックなんじゃね?』
人為的としか思えない地形に、私は改めてパーティーメンバーを見渡した。
ゴリラ人間、コウモリ人間、魚人間、普通人間、ヴァンパイア…。
『ふむふむ…なるほど。こりゃあ、一択だね。』
私はゴリオの手を取り、フィの遊んでない方の窪みに彼を立たせた。
ゴリオを立たせた窪みがゆっくりと下がり始める。
『たぶんゼRダ的な展開で正解っす♪』
次に、マルセロさんとミヤタさんをフィの遊んでる窪みに立たせ、仕上げに私が、ミヤタさんとマルセロさんの「間」に、すとん、と割り込んだ。
こっち側の窪みもゆっくりと下がり始める。
これで両方の窪みが下がったことになる。あとはバランスの問題。
「あの…、准尉、これは、何をやってるんですか?」
マルセロさんの質問には、振り返って「謎解いてんだよ。見りゃ分かるだろ?」と、眼ヂカラで応えておいた。
「准尉…?まだですか?」
『こっちが重すぎるんだな。ミヤタさんとフィは、どっちが軽いんだろう?』
2度目のマルセロさんは華麗に無視した。
身体が小さい分、フィの方が軽い、と考えるのが普通だ。ざっくりとした重さは私でも抱っこできるくらい。
だけどフィは肉食で、力も強い。一方のミヤタさんは、身長があるけど飛べる。
『うーん。重量は表面積に比例したりするのか?そうなると、ミヤタさんは翼があるし、軽いのはフィなのかぁ?』
「ミヤタさんの方が軽いですよ。フィの半分くらいです。」
ミヤタさんとフィを交互に見つめる私の怪しい視線に気づいたマルセロさんがすかさず言った。さすが諸々運搬係。
『え、マジ!?ミヤタさん、メッチャ軽いじゃん!』
ビックリした顔をする代わりに超スピードで振り返ったら、じゅ…准尉と同じくらいです、とマルセロさんは的外れな応えを返してきた。
そんなわけねぇだろ。
ゴリオの立っている窪みに移動する様、マルセロさんがミヤタさんに指示してくた。
ミヤタさんは、ふぅ、とため息をついてから移動する。そうね、何してるか分かんないよね。
ミヤタさんが移動した結果、当たり前だけど、こっちが上がって、向こうが下がった。
しかし、なにも起こらない。
「フィとミヤタさんが逆ですかね?」
フィとミヤタさんを入れ替えてみる。
しかし、なにも起こらない。
念のためもう一度2人を入れ替えてみても、結果は同じだった。
こうなると、そもそもの条件が違う可能性もある。窪みをよく観察しよう。