南米基地は用水路が多い。
その中でも南西地区は特に用水路が多いことで知られている。
生き残った兵達が拠点にしている建物の裏にも用水路がある。
その用水路の淵に腰掛けて並ぶ「2つの影」。
2つの影の横にはそれぞれ特徴的な影が見える。右にアンテナ、左にナース帽、だろうか。
ちょうど手のところで2つの影は重なって見える。ちなみに、アンテナに近い右の影の方が、明らかに細い。
「よう、相変わらず仲が良いな。お二人さん。」
少し離れた所から、2つの影に向かって、堂々とした影が言った。堂々とした影は2つの影に近づくと、その間にしゃがみ込む。3つの影はまるで「山」の字のよう。
「お前ら、フェアリーテイルって知ってるか?」
堂々とした影が2つの影の耳元で囁くと、2つの影は同時に頷いた。
「むかし、むかしのお話。
片方の翼を失った女神様は、その傷を癒すため、この地に降り立った。
この地に生きる全ての命は、美しい女神様の降臨に歓喜した。
女神様は感謝し、自らの気持ちを歌にした。ー安らぎの歌ー
女神様の傷が癒え、別れの時が訪れた。
この地に生きる全ての命は、別れを悲しむあまり、女神様を穴の奥に閉じ込めてしまった。
女神様は許し、命の悲しみを歌にした。ー許しの歌ー
深い深い穴の奥で女神様は歌い続けた。
この地に生きる全ての命は、長い月日の果てに女神様を忘れてしまった。
女神様は嘆き、自らの願いを歌にした。ー忘却の歌ー
女神様は歌う、捨てられた地の底で。
女神様は歌う、新しい命の輝きを。」
ナース帽に近い左の影が歌うように言った。
「その話、2段目以降がちょっと急展開すぎると思わないか?」
堂々とした影が言うと、2つの影は少し間をおいてから頷いた。
「今のフェアリーテイルは、欠片を繋ぎ合わせているだけで実は未完成だ。」
2つの影が顔を見合わせて驚く。
「お前たち2人は、フェアリーテイルの欠片を集める旅に出ろ。いますぐだ!敵が大人しいうちに行け!」
2つの影はシャンと立ち上がり、しゃがんだままの堂々とした影に向かって敬礼をした。
大慌てで駆け出した2つの影は、ちょうど手のところで重なって見えた。
「女神さんよ。あんた…、いったい何者だ?」
誰もいなくなった用水路の淵で、堂々とした影が1人呟いた。