「本当は、死に場所を求めて騎士団に入ったんです。…どうぞ、頭を狙ってください。」
そう言って、マルセロさんは私の膝に玩具みたいなハンドガンを置いた。
膝の上にかかる、見た目とは裏腹な重量感が、ハンドガンは本物だと語る。
『彼は本気で言ってるの…?』
私は震える手を少しだけ伸ばしたが、結局ハンドガンを持つことはできず、引っ込めてしまった。
それから、目をキツく閉じたまま首を大きく振って俯いた。
膝の上から「重み」が消える。
ハッとしてマルセロさんを見ると、彼はハンドガンを自分の右こめかみに当てたまま、ぼうっと星空を見上げていた。
彼の瞳は、色を失ってしまったように、とても冷たい。たった数十センチしか離れていない彼が、とても遠い。
カチッ…。
カチッ…、カチッ、カチッ、カチッ…。
彼が何度引き金を引いても、ハンドガンからエネルギーが放たれることはなかった。
私達の間を吹き抜けた一陣の風が、再び彼の腕に動く猶予を与える。
『もう止めて!』
川面を蹴った足に飛沫が舞う。
マルセロさんは抵抗する事なく仰向けに倒れ、私は倒れた彼の上に覆い被さり、腕に目一杯の力を込めて抱きしめた。
銃口は星空を指している。
バシュンッ…!
彼のこめかみから離れた銃口は、さも当然と言わんばかりにエネルギーを放出した。
螺旋の帯を纏った青白いエネルギー弾が、静かな星空をどこまでも登る。
「…呪いは存在します。……准尉…?」
私はマルセロさんを抱きしめたまま、わけもわからず涙が止まらない。
「……ダメ…、…死…な…。…決……た…未来…な…て…ない…。」
女神姿で初めて口にできた言葉は、涙に濡れて虫食いだらけだった。
「そうですね…。すみませんでした。」
ちゃんと聞き取れたのか定かではないが、マルセロさんはそれ以上、何も言わなかった。
彼の大きな手が、震える私の肩を掴み、重なったままだった2人をそっと引き離す。
行動とは裏腹に、その手はとても優しく、そして、とても暖かい。
大きな手が2人を先ほどの距離に戻した。いや、少しだけ近くなった。
2人の肩はもうすぐ触れる。
『決められた未来なんてないよ。』
水面に落とした2度目は、音にならなかった。