満天の星空を渡った図太い声は、奇しくも私の気持ちと同じだった。
隣りで大の字になって眠るフィの寝息を気にしながら、私はそっと身体を起こす。フィを挟んだ反対側で寝ているはずの男の姿がない。
「起こしてしまいましたか、すみません。どうか、お気になさらず寝てください。」
テントの外から、男性が図太い声をかけてきた。
声の主を探して外に出る。インナースーツだけだと、夜は少し肌寒い。
川岸の木々が虫の声に合わせて踊る。
男がテント近くの川岸に座って、膝から下を水に浸けていた。
几帳面に並べられたブーツが男の正体を語る。
私は男の右隣に腰を下ろし、男を真似て脚を川に入れた。
水は思ったよりも冷たくない。疲れた足に心地よい水温だ。
ッタタさんの洞窟を出て、今日で2日目が終わる。
辺りの地形は水辺より陸地の方が多くなってきた。
陸上移動が得意でないフィのため、私達は川沿いに陸路を進んでいる。フィも頑張って歩くが、すぐに疲れてしまうので水辺から離れるのは難しい。
「俺達が目指しているのは、あの山のようです。」
男が、マルセロさんが、川の上流にそびえる小高い山を指差して言った。
川沿いに行けるならフィも移動しやすくて助かる……って、そうじゃない。
『私はそんな話を聞きに、こんな川べりに来たんじゃあないっ!』
マルセロさんの左肩にグルッと手を回して、男同士がするみたいに肩を組んだ。
…嘘です。正直に言うと、肩まで手が届かなかったので、首を掴んで寄せました。
『目線はバッチリ!さあ、マルセロくん。無表情な上官の眼ヂカラに、この至近距離で耐えられるかな?』
「じ、准尉…、当たってます、み、右腕に…。あと…その、若干…見えそうです。は、話しますから離れてください。」
『このサイズ差じゃ、そうなるよねー。』
クッソ恥ずかしいけど、無表情でよかった。
今さら胸隠すのも変だし、とりあえずビンタしとこう!
「なんでっ!?」
これは、私にビンタされた直後のマルセロさん。マルセロさんは、こーゆー反応もできる男だ。
「あ、いえ、すみません。准尉のお気遣いに対して、エro…不適切でした。」
これは、ビンタされた5秒後のマルセロさん。エロとか、と言いそうになるのも含めていつも通り。
それからマルセロさんは、聞いた話なのでどこまで本当か分かりせん、と前置きしてから話し始めた。
彼の右頬が赤い。マジごめん。
「俺のお袋はヴァンパイア。親父は人間。
ある日、親父がお袋に恋をした。それが始まりです…。」