それっきり私の表情が変わる事はなかった。
色んな感情を強く思ってみても、表情筋はピクリともしない。ましてや声なんて出せる気がしない。
『無し子。』
中学に入学してすぐ、クラスの男子からそう呼ばれたのを思い出した。
あの時は確か、前髪を切りすぎたのがキッカケだったような、そうでなかったような。
『無し子か…今だって「表情無し子」だけどね。』
せめて変身を解くことさえできたなら、マルセロさんやフィともっと沢山の「今」を分かち合えるのに。
もし私が突然消えてしまったら、彼らは気づくのだろうか。
誰も気づかないかも知れない。
『ねぇ、私は本当にココに居るの?』
光学迷彩テントの透過膜越しに月明かりのない夜空を見上げた。
月に代わって地球の夜の主役となった星々が満天を埋め尽くし踊っている。
ふと、ルイズさんに言われた自分の身体のことを思い出す。
私の身体は、普通に生活しているだけでVマイクロムを十分に循環できてしまうらしい。
事実、極限状況以外で吸血の必要はなく、全身がバラバラに吹き飛んでも平気だった。
両翼を失った今の状態でも、目覚めてから現在に至るまで、血の欲求に襲われたことはない。
私達がココに飛ばされたあの日、ベアトリスさんはエネルギー切れを起こしたと言っていた。
思うに、他のヴァンパイア達は吸血ナシで永久に変身状態を維持することができないのだ。
この考えが正解だとすれば、当然中尉もエネルギー切れが起こる事を知っている。
それなのに中尉は、私に変身を解くな、と解釈できる指示を出した。
『中尉は私の身体が特殊だって知っていた…。』
ルイズさんから聞いた、と考えれば何もおかしくはないのに、私の心は釈然としなかった。
中尉はもっと前から私の特殊性を知っていた、そんな気がしてならない。
『どうして?どうして私だけこんなにも違うの?』
『声も感情も表に出せないのは、なぜ?』
『どうして?』
『どうして!?』
「どうして…俺なんだ。」
ドキッとした。
いきなり声変わりしたのかと思ったけど、今のはさすがに私じゃない、と思う…。