「私は水の代弁者、ッタタと申します。お目にかかれて光栄にございます。」
お爺さんが土下座したまま、マルセロさんより流暢なヴァンパイア語で言った。
見た感じヴァンパイアっぽくはないから、従軍経験者かも知れない。つーか、名前「あなは」じゃねーし!
「助かった!自分は南方所属のマルセロ、こちらは東方のタナカ准尉です。自分達は敵と交戦中、HCマインによってココに飛ばされてしまいました。南米基地への道を教えてくれませんか?」
マルセロさんが生き生きと喋っている!
そういえば、マルセロさんはずっと人と喋っていなかった。
ここに来てから彼の周りに居たのは、無言の私、タマころ、言語違いのふぃ、返し上手のAI。
この中でマトモに話せる相手は、変な方向に知識が偏ったAIだけ。
「申し訳ありません。私はナンベイキチを存知あげません。」
ッタタさんから返ってきたのは意外な応えだった。
天体測位した結果では、この辺りは南米基地近くのはずだ。仮に数百キロ離れていたとしても南米外とは考えにくい。
ヴァンパイア語を話せる人なら基地を知っていて当然ではないか。
「いえ、こちらこそ、いきなりすみませんでした。ヴァンパイア語を話されるので、てっきり元騎士団員かと。タタさんは、宿主ですか?」
「…ヤドヌシ?ヴァンパイアゴー?」
「そうです。こちらの准尉も宿主です。他の人よりも優れた感覚を持っていませんか?え…ゴー?」
会話が噛み合っていない。
ッタタさんはヴァンパイア語を話すのに名称を知らないのか、ポKモンGOみたいな発音になっていた。
水棲人類のヴァンパイアがいるなんて噂は聞いた事がないから、人里離れたこの場所で代々受け継がれてきた種の可能性もある。
「私の話す言葉のことでしょうか?私達代弁者は、この言葉をサクアモイの言葉と呼んでいます。偉大なる母、サクアモイ様がお話になる言葉です。」
『アモイ?様?』
また知らない単語が出てきた。
マルセロさんが知ってるかと思って見たら、彼も私を見ていて、申し合わせたようにお互いが首を横に振る。
ッタタさんに向き直ったマルセロさんの背中は大きい。
『あ、背中擦りむいてる。キュアエイド、どこにしまったっけ?…ボートだゎ。水は綺麗だったけど化膿しないかなぁ?』
「私は水の代弁者。サクアモイ様から、特別な詩を預かっています。」
立ち上がったッタタさんは、私達のプチ混乱などお構いナシに話を進める。
なんかRPGのイベントキャラみたい。
「水は流る。青き魂、サクアモイの涙とならん。……以上です。」
『ん?なにそれ?私達に関係なくね?』
返し上手な爺ですら無言だった。