洞穴は小高い岩山の亀裂だった。

 岩山は1つではなく、似た山々が幾つも連なっている。
 眼下に広がるのは、どこまでも続く透き通った水。水の中を銀色の魚達が矢のごとく行き交う。
 碧い苔に覆われた灰色の水底が見える。水は深くないのだろう。
 あちこちに色とりどりの実をつけた木々が群生しているのは、この水が海水ではなく淡水ということか。

 遠くに白い煙が立ち上るのが見える。耳を澄ませば活気溢れる人々の声が聞こえる。
 虹色の鳥が踊る、雲ひとつない空の中心に、黄金の太陽が2つ並んで煌めいている。


《姫様!おはよう、ございます、です、じゃ。》

 ちょっとだけ懐かしい爺の声がした。
 爺は岩山のふちでキューズのタマと一緒に日向ぼっこ中だ。彼らにとって、日向ぼっこは「充電」を意味している。


「あの煙は集落です。准尉も一緒に状況確認をお願いします。」

 マルセロさんが足元から私を呼ぶ。

 彼は右前方の一段下がった所から、バンザイする格好で手をあげていた。

 

 正直言って、段差がありすぎて手を取りにくい。

 屈むか、ふちに腰掛けるかしなければ、バランスを崩してしまいそうだ。

 

 運動神経のない私は、より安全そうな腰掛けるを選択する。

 腰掛けると、申し合わせることなく爺が肩に乗ってきた。

 前にも増して爺が懐いている気がする。これもリンクの影響なんだろうか。

 

 足が竦んでしまうほど高い岩山のふちで、必死に掴んだ彼の右手が、どんなに心強かったか、形容できる言葉を私は持ち合わせていない。

 

 私なりの言葉で言うならば、マルセロさんの手は、ゴツゴツしていて、とても大きい。

 


 ただでさえも眩暈がするほど高いのに、段差の1つ1つは思っていたよりも遥かに高かった。

 

 彼に抱えてもらって、やっと一段降りられた。

 


 手をとって、抱えられて、そうやって私は、一段ずつ下に降りた。


 パシャ…。

 やっと水辺に足がついた。

 同じ高さに立つと、私の目線は彼の胸までしかない。