ドクンッ!

 胸の奥で「なにか」が悲鳴を上げた。
 生きながらに体験してはならない程の熱と痛みが私を襲う。

 私は、内臓が弾けるような痛みに地面をのたうち回り、呼吸する度に白くたなびく息を死んだように見つめるしかなかった。
 時間にしてほんの数分の事だったのに、痛みと熱にひたすら耐え続る時は、半日にも等しく感じられる。

 私の表面を薄っすら黒いインナースーツが覆い始めた頃、やっと痛みが和らいだ。
 インナースーツのリアライズが、着るのではなく、体内から湧くのだという事を、その時初めて知った。

 焼けるような熱は、その後も数分間続くこととなる。


 インナースーツのリアライズが終わると、ついさっきまで苦しめられていた痛みと熱は完全に失せ、そこで変化は終わってしまった。

 ショートヘアの自分をイメージしたのに、髪の毛は変わらずに、長いまま。

 

 髪型はさほど重要でない。

 インナースーツは髪の毛を使ってリアライズしている、と勝手に思い込んでいたようだ。

 死ぬ思いをして身に付けたインナースーツだけで満足しよう。

 


 生きてて本当に良かった!

 傷は再生しないし、リアライズは意味不明で、しかも痛い。
 私は、当分の間リアライズしないでおこう、と心に決めた。



 半裸と苦痛から解放された私は、身体を起こし、改めて洞穴内を見渡す。
 洞穴内はそこそこ広い。私がのたうち回っていた洞穴の中央辺りは天井が高くなっているので、私なら立っても頭をぶつける心配はなさそうだ。
 一方で入口付近とベッドのある奥はかなり天井が低い。

 私が寝ていたベッドは、木の枝の上に草を敷き詰めて、表面に携行用多用途シートを敷いた野性味溢れる特性ベッドだった。
 寝心地は悪くなかった、と思う。
 ベッドが1つしかないのは、深く考えないでおこう。

 私愛用のランスは、立てかけられないので先を足元に向けてベッドに沿うように置いてあった。
 マイランスちゃんは、どれだけ雑な扱いをしても、欠けない、割れない、曲がらない。だけど、パルスとやらには負ける。

 防御性能がイマイチ分からない女神のブラアーマーは、枕元にあった。
 鎧の外側は弾丸を弾くほど硬い。その反面、内側は低反発風になっていて、カップ周りだけ厚めの親切設計。自然な感じのヨセアゲを実現してくれる。
 マルセロさんはブーツとガントレットも脱がしてくれていた。几帳面にアーマーの横に並べて置いてある。


 結果としてアーマーは全部脱がされていた事になる。
 着用したままだった腰のヒラヒラだけ、何気にアーマーではなく服だ。お尻を重点的に隠す形で、布に白く染め上げられた革のヒラヒラが6枚重ねて縫い付けてある。

 …本当は服じゃなくて下着なのは内緒だ!


 全ての装備を身に付けた私は、ランスと頭が天井に当たらないよう、身を屈めて洞穴を出た。

 

 

 外は想像してた以上に明るくて、真っ白な中に立ち尽くすことしかできない。

 どれくらい立ち尽くしていたのだろう。

 ゆっくりと彩りを取り戻した世界が、柔らかな風で私の髪を撫でた。