1500年前、神は、人類にヴァンパイアの殲滅を命じる。
自らの手は汚さず、神の名の元に同族同士を争わせた。ヴァンパイアにとって人類は、共に生きよう、と何度も語り続けた友であり、互いに争う事自体が拷問に等しい。
多くのヴァンパイアが、最期の時まで人類が共に生きる道を選ぶと信じ、友の攻撃に抗うことなく、自らの命を心願の供物とした。
それでも止む気配のない人類の攻撃に、ヴァンパイアの中には、ここで滅びるのが種の運命なのだ、と終末論を唱える者さえいた。
それから実に500年もの間、ヴァンパイアは人類から身を隠して生き続ける。
そして1000年前。
1人の戦士と彼に従う3人の巫女が、諸問題の根源たる神を滅ぼす、と立ち上がった。
たった4人だけの蜂起。しかし、4人の中に「戦士」がいた事、それが全てだった。
巫女の加護を背に受けた戦士は、1人で戦場に立ち、攻め入る人類を誰1人殺める事なく打ち伏せ、降参させた。
何度も何度も、彼はたった1人で勝ち続けた。
勝利する度、彼は、人類に向けて神の矛盾を説き、ヴァンパイアに向けては、神を討て、と叫ぶ。
彼と対峙した人類は皆、口を揃えて「竜のごとき凄まじさ」と、その剛を評する一方で、強大な力を心底恐れ、心が恐怖に支配されてしまわないよう、ますます神に祈りを捧げた。
いつしか戦士は「竜王」と呼ばれるようになり、全人類の恐怖の象徴、すなわち、滅ぼすべき悪の象徴となっていく。
人類の恐怖心は、戦士の願いをヴァンパイアに届けた。ついに、人類を救うべく、全ヴァンパイアが神に対してその拳を握る。
戦士の圧倒的な膂力とカリスマ性を恐れた神は、戦士の妻を捕えよ、と人類に命じた。
愛する妻を救うため、戦士は自らの首を捧げる、と人類に約束する。
しかし戦士の妻もまた、愛する夫を救おうと、自ら命を絶ってしまう。
悲しみと怒りに支配された戦士は、一晩のうちに人類の半分を消した。
人類は、神への道を開き、戦士は、一騎討ちの末、神をこの星から退ける事に成功する。
その後、戦士は、愛する妻の残した幼子を連れて姿を消した。
残された巫女達も、戦士とその子孫に永遠の忠誠を誓い合い、風となって消えたという。
逃げ延びた神は、この星と人類の支配を諦めなかった。
繰り返し訪れては、時の最大勢力に接触を計り、その度にヴァンパイアの殲滅を人類に求めた。
しかし、神の願いは、最初の時と同じく、その時代の竜王と、風と共に現れる巫女達によって阻まれ続けた。
時は流れて、ロズウェル事件が起こる。
それは、人類の文明レベルとテクノロジーが飛躍的に進歩した時代の邂逅であり、人類は、神のテクノロジーを理解するだけでなく、自らの手でそれらを再現できるまでになっていた。
ロズウェル事件以降、人類とヴァンパイアのパワーバランスは崩壊し始めている。
すでに人類は、ヴァンパイアを殲滅しうる力を知った。
神の悲願が成就する日は近い。