『役立たず。』
右肩を撃たれた私は心の中で呟いた。
誰も口に出して言わないけど、たぶん全員が思っている。
情報収集のため一旦拠点に戻る事にした私達一行は、私が寝ている間に合流した3人を含めた6人で、ただいま絶賛交戦中だ。
A33ポートだけは敵に渡してはならない、と言う事で、少佐は迷わず爆弾をセットしたんだけど、環境ノイズキャンセルが効かない私の声のせいで、少佐達の潜入がバレてしまっていたから、さあ大変。
少佐は、ゲートの起動音でバレてるから気にするな、と言ってくれたけど、正直気にします。
結果、敵の戻りが予想よりも早く、セット後すぐ爆破しなければならない状況になってしまっていた。
爆破後の周辺包囲網は何とか突破したものの、次から次へと湧いてくる敵に阻まれて、まだポートから300メートル程しか移動できていない。
時限爆破する猶予があったなら、現状はかなり違ったはずだ。
進軍が遅い理由はそれだけではない。
みんなが着ているバトルスーツには色んな機能が搭載されているらしく、突然加速したり、消えたりする。
そんなチートスーツを着ていると知らなかった私は、すぐ側にいる「見えない」味方を探して敵の前に飛び出すなど、残念な方向にメッチャ目立っている。
『役立たず。』
頭を撃たれた私は、改めて呟いた。もちろん声にはなっていない。
進路を切り開らくため必死に戦う男性陣の横で、私は知子ほどではない巨乳の衛生兵さんと隠れている…、と言うのは嘘だ。
真っ白に輝く私は全く隠れてない。少しでも目立たない様に泥だらけになってみても、数分すると純白ボディに戻ってしまう。
お察しの通り、私はさっきから何度も被弾している。
撃たれても表面で弾く感じなので致命傷にはならないけど、当たった部位が5ミリほどヘコみ、デコピン並に痛い。
最初に撃たれた時はかなり驚かれたが、私の特殊能力だと理解したのか、今は被弾しても放置。
皮ルイズさんに頭を撃たれた時は派手に吹き飛んでいた気がするので、ヘコむ現象が普通なのか、吹き飛ぶ現象が普通なのかは分からない。
確かなのは、被弾によりヘコんだ傷は、なぜか他の傷よりも再生に時間が掛かる事だ。
「ちっ!キリがねぇな…やっぱ、俺が単騎突っ込むか?」
「少佐の実力は存じ上げていますが、万が一の事があったら士気に関わります!お控えください!」
少佐の突撃発言を、衛生兵さん達と一緒に合流した寡黙な男性が制した。
彼は、人知れず死んだのかと思うくらい、無駄話をしない。
「他に手がないだろ!」
さすがの少佐も焦れてきたようで、単騎突入正面突破脳筋作戦を1分おきに提案してくる。
ちなみに、会話は端末経由なので銃撃戦の最中でもよく聴こえます。
『あ!私、イイコト閃いたかも!』
私は爺にイイコトをインプットしてみんなに送信した。
《皆さんの中に黒毛種はいらっしゃいますか?居たら私を敵に向かって投げてください。私は飛べます。敵の中心に爆弾落としてきます。》
送信した直後、全員の手が止まる。
それから、また左側頭部に被弾した私を一瞥して言った。
「バカだな。」
「バカですね。」
「外見が良い女ほどバカってね。」
「その外見が良い女に私は含まれる?」
「…」
『みんな、素敵な反応をありがとう!南米まで来てバカ呼ばわりされた…。バカのまま引き下がってやるもんか。』
私は、またインプットしてみんなに送信した。
今さらながら喋れないのはかなり不便だ。
《私は金毛種です。不死身です。保険に宿主の血を貰えると助かります。》
金毛種である事をカミングアウトした。
けっこう長い沈黙が続く。
「東京のレジェンド金毛キター!」
「そりゃあ、撃たれても平気だな。」
「少佐、投げときますか?」
「おう!金髪バカを投げてやれ!」
「…」
『金毛種ブランドの信頼は絶大!』
若干先代の金毛さんと間違われてる気が…。その上、金髪バカって…。
てか、さっきから黙ってるのは誰だぃ?
「はい、どうぞ♪」
隣りにいた衛生兵さんが、すべすべの腕を差し出して来た。
つまりこれは?
「私は黒毛種の宿主よ。宿主限定の意味は分かんないけど、私ので良ければ飲んで。」
『宿主なのに戦ってなかったんかぃ!』
まぁ、戦ってないのは私もだけど。
せっかくなので、私は衛生兵さんの血をいただいておこう。
私は、高級スフレみたいにふわっふわで柔らかい彼女の前腕に唇をつけ、一呼吸置いてから口を開けた。
意識がある状態で吸血するのは初めてだ。知子の時は自分の歯で噛んだので、Vマイクロムは関与していない。
いざ吸血しようとすると、左右の犬歯裏からモゾモゾと何かが生えてくる感じが…、俗に言う牙ですね。
鏡で見たワケじゃないけど、たぶん思ってたより太い!小指くらいの太さがあります。
肝心の吸血してる感覚はと言うと、何も感じません。
Vマイクロムが吸血してしまうので味すらしない。